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そう言って、加州さんは車を発進させた。
「この後は、どうするんですか?」
用事も果たしたし、家に帰るのだろうか? そう思って運転席にいる加州さんに尋ねると、加州さんは「腹が減ったから、昼飯でも食いに行こう」と告げた。
「夜はいいところのディナーを予約してあるんだ」
「へ?」
「その前に、ブティックにも寄っていくか。ちゃんと昼飯食っておかないと、体力持たないぞ」
そして彼に連れて行かれるまま昼食をともにし、私はブティックの前に来ていた。
(……また、随分高級そうなお店だな)
「何突っ立てるんだ、早く行くぞ」
「は、はい!」
ドアに近づくと、それは中から勢いよく開いた。
「加州さん! 久しぶり~!」
飛び出してきた女の人が加州さんにぎゅっと抱き着く、彼は煩わしそうにその人を引きはがした。長いまつ毛に、唇をかたどるハッキリとした色の口紅。体にぴったりとしたワンピースはとても彼女に似合っていた。
「最近中々来てくれなかったから、どうしたのかなって思っていたところなのよ!」
「ここに用事がなかっただけだ。莉乃、おいで」
私が戸惑っているのに気づいた加州さんが私を呼ぶ。少しだけ彼に近づくと、加州さんは私を引き寄せて、今度は腰のあたりに腕を回した。
「ひゃっ……!」
「莉乃、コイツはこの店のオーナーのヒロコだ」
「あら、久しぶりに来てくれたと思ったら、新しい女の子を自慢しに来たってわけ?」
ヒロコさんはため息をつきながらお店の中に戻っていく。私たちもそのまま、ブティックに入っていく。お店中に花のような甘い香りが広がっている。
「この後ディナーなんだ。それらしい服に着替えさせてやってくれ」
「若くてかわいい女の子とデートってことね。それはいいけど……」
ヒロコさんはふんふんと頷きながら、私の頭のてっぺんから足の先まで見渡していく。
「今までの加州さんのカノジョとは違うタイプね……新鮮っ! 私の好きにしてもいい?」
「莉乃は、何かこだわりはあるか?」
「い、いいえっ」
「じゃあ、イイ感じに見繕っておいてくれ。俺もいったん家に帰って着替えてくる」
「はいはーい! そうだ、ヘアメイクも私がやっていい?」
「任せる」
「やった! 加州さんがびっくりするくらい可愛くしちゃおっと! 莉乃ちゃんだっけ? こっちにおいで」
ヒロコさんが私の腕を引っ張る。加州さんは「楽しみにしてる」とだけ言って、ブティックから出て行った。
「加州さんも、いつのまにこんなに可愛らしいお嬢さんと付き合いだしたのかしら? 全然話聞いてなかったからびっくりしちゃった」
「別に付き合っている、っていう訳じゃないんですけど……」
「え゛? うそでしょ!」
ラックにかかっているフォーマルドレスを何着か引っ張り出しながら、ヒロコさんは驚いたように声をあげた。
「加州さん、莉乃ちゃんにめっちゃ惚れてるって感じだったけど! なになに、どういう関係?」
ヒロコさんは私たちの関係に興味津々な様子だった。私はその勢いに押されて、ついうっかり……今までの出来事を話してしまった。
「うわ、最低じゃん、加州さん。初対面でソレはないって、引くわー」
「あはは……」
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