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「んん……」
身じろいだ時、体にシーツが触れるのに気づいた。見慣れないカーテンからは明るい陽の光が差し込んでくる。体はだるくて、まだ頭がぼんやりとしている。それでも、私はいつものようにパジャマを着ていないことにはすぐに気づいた。
(あれ、ここは……)
「起きたか、莉乃」
「え? ひゃっ!」
名前が呼ばれた方向を見ると、加州さんがこちらに背中を向けていた。彼の背中に彫り込まれた鳳凰の刺青が、ばっちり目に入る。
「なんだ、まだ駄目か」
加州さんはそう言って、床からバスローブを拾い上げてそれを羽織った。私が小さく息を吐くと、彼は優しく私の頭を撫でる。
「疲れたか? よく眠っていたな」
「……え?」
「まだ寝ぼけてるのか? まさか、昨晩何があったのか忘れてないだろうな?」
莉乃は忘れやすいからな、と加州さんは笑いながら付け加える。次第に鮮明になっていく私の頭の中で、昨晩の事がありありと蘇ってきた。耳まで赤く染めると、加州さんは、今度は声をあげて大きく笑う。恥ずかしくなって、私は布団の中に潜り込んだ。
昨日は、洗面所で一回、お風呂で一回、濡れた体のまま、ベッドでさらにもう一回……と私と彼は関係を持ち続けた。加州さんの体力はすさまじくて、私がへとへとになっていても、中々離してはくれない。気づいた時には、もう朝だった――という訳だ。
「昨日は驚いたよ。イッた途端気を失うんだから」
「そ、それは加州さんが……!」
布団から顔を出して抗議の声をあげると、加州さんは私の頬を撫でた。
「そんなに気持ちよかったか?」
恥ずかしくて閉口してしまう。加州さんの手付きは、荒々しい夜のモノとは違いとても優しい。
「莉乃、立てるか? 朝飯の用意が出来ているらしいから行こう。俺も着替えてくる」
加州さんは「莉乃の服はそこに置いてある」と告げて、ベッドルームから出て行った。私は布団をめくり、ベッドの真ん中に座り込んだ。
昨晩の事を思い出すと、体が燃え上がる様に熱くなる。
加州さんは私を深く貫くたびに、何度も何度も同じ言葉を囁くのだ。
『愛してる、莉乃』
と。私は囁かれるたびに彼の背中に腕を回して、ぎゅっと縋り付く。彼との距離が限りなくゼロに近づくと、頭の中は彼がもたらす快楽でいっぱいなのに、どこか安心してしまった。
「……変なの、私」
呟いた言葉は、誰にも届かずベッドルームに漂って、気づいたら消えていた。
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