1、「藤瀬愛奈×神田蓮」

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「愛奈さんが仕事決まって、バイト辞めてからも連絡取り合いたいんだけど… 。」 「あ、あーね?いいよいいよ、別に、全然、うん。」 何だ、そんなことか…意識してた分、肩の力がスッとぬけてゆく。 「だーっ、違う違う違う!言いたいのはそれだけじゃなくて。」 すると今度は蓮くんが頭を抱えてブンブンと振りだす。 えっ?えっ?えっ? 思わず私もあたふたしてしまう、はたから見ると夜の公園、ベンチで端と端の 男女が何か身悶えている…怪しすぎる。 「愛奈さんと離れたくないんだ。一緒になれないかな?」 「ふぇっ?一緒…って?け・結婚??」 人生でさすがに“一緒にいたい”はあっても“一緒になりたい”は、言われた 記憶がない、頭にプロポーズと結婚の文字が浮かぶ。 「あ、いや…いや…じゃないな、うん、そうだ。結婚だ、結婚を意識して俺と 付き合ってくれませんでしょうか?」 一度は否定した蓮くんは、思い直したようにストレートに言い切ってきた。 なぜかその姿は腰に両手をあて、昔流行った“当たり前体操”のポーズみたい だ…頬も耳も真っ赤だ…息を止めているのだろうか? 「えっ…っっっと、じゃあ…はい。よろしく…お願い、します。」 私は間のぬけたような返事をしてしまった。 あまりの展開に頭がついていかず、素の気持ちだけで返事した私は、嬉しさと か喜びとかのグチャグチャした感情は蓮くんと別れてからやって来た。 それから就職が決まるまではなるべく時間の合間を二人で過ごし、私がバイト を辞めて社会に出てからは九州と東京との遠距離恋愛となり今に至る。  私は大学卒業後、地元の福岡の広告代理店に勤め、蓮くんは専門学校を卒業 後、奨学金の関係上、東京の老人介護施設で仕事をし、今月奨学金の免除の資 格を手に入れた時点で福岡に引っ越して来ることになった。 介護の仕事もさ、医療の仕事と同じで全国何処でも仕事できるのが強みなんだ よね?なんて、笑いながら早々に病院系列のグループホームの正社員の採用を とってきた。 そんな国家資格と共に手に職を持つ彼のことが私は時々うらやましくもある。 だって私といえば人並みにパソコンが扱える程度で、資格という資格もなく、 さらに家事に関してはおそらく彼の方が掃除の手際も料理の味つけも上手な ようなのだ…。 歳上でとくに家庭的とも百歩譲って不細工ではないと思うが、とりわけ美人 でもない外見の私のどこがそんなに良かったの? …言葉にして放り投げてみればこんなに虚しいものはない。 さっきまで幸せオーラ全快だったのに、今はすごくネガティブオーラになって しまった自分を自嘲し、私はそのまま寝落ちしてしまった。
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