バイト

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「バイトがしたい」  突然、そう思い立った。理由は特に無い。  ちなみに、兄の晴友が学費を自分で稼いでいるのも特に意味は無い。両親は健在で、むしろ裕福な方だし。  思ってしまったら、すぐに何かを始めたくなった。あるよねそういうこと。  家にあった履歴書を引っ張り出し、ボールペンで何も考えずに一発書きする。趣味は友人と犬、特技は寝ることと書いておいた。  封筒に履歴書を入れ、外に出る。あとはバイト希望のところへ提出して面接してもらうだけ。ただし、面接の電話はしていない。バイトをどこでするかも決めていない。  働きたい場所は無いが、働きたい。ただただ、バイトがしてみたい。とりあえず、次に出てきた店で面接してもらうことにした。 「おお、ここか!」  コンビニが見えてきた。心なしか、俺に働いてほしそうにしている。 ――うん。無難だけど、初めてのバイトに向いてそうなところだ! さっそく店長を呼んでもらうぞ。  一目散に店内へ競歩して、ドアを全開けした。ドアちゃんはちょっとミシって言っていた。 「っしゃーせー」 「店長を呼んでください」 「は、はいぃ? クレーム……?」  やる気の感じられなかった店員が背筋を伸ばし、バックルームへ逃げていった。一分もしない内に、お腹がシュークリームみたいなおじさんを連れて戻ってくる。二人とも、表情がおぼつかない。働き過ぎて寝不足なのかも。コンビニ業界も大変なんだなぁ。 「お待たせ致しました。私が店長の――」 「面接に来ました!」 「え? 面接? クレームじゃなく」 「はい、面接に」 「ああ~、なるほど。面接、面接ね。よかった、君、レジに戻っていいよ」 「ほっ……あざーっす!」  喜々とした様子で声をかけ合う二人。なんか良いことあったのなら、同じ空間にいる俺にも教えてほしい。一度会って挨拶したら友だちって言うだろ? 「あれ、今日面接の予定入っていない、というか、今バイト募集してないはずなんだけど」 「歩いていたら目についたので、入ってみました。履歴書持ってきてるんでお願いします!」 「自由だねぇ~~~~、僕の話聞いてないかな?」 「宜しくお願いします!」 「聞いてないねぇ」  店長が首を傾げてため息を吐いている。更年期ってやつか。 「いいや。人が足りない時の補充くらいなら。とりあえずそこに座ってもらおうかな」 「はい!」  履歴書を受け取る店長に体が貫通するくらいの熱視線を送ると、店長は「今すぐ、店を出て高速を飛ばして海へダイブしたい」と呟いていた。
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