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「ただいま」
「おかえり、遅かったね。その人形は?」
帰宅した晴臣の手には、薄汚れた日本人形。髪の毛はざんばら、着物もところどころ破れており、あまり触りたくない様相をしている。
「ゴミ置き場に捨ててあった。可愛らしいし、間違いで捨てられたのかと思って警察に届けたんだが、警官から「届け出なくても大丈夫だよ」と言われてな。捨て直すのも面倒だし、そのまま持ち帰った」
「へえ~~~~~~、うん。かわいいね」
人形を覗き込み、晴友が言う。人形の頬がわずかばかり赤みを帯びて見え、きっと彼女も拾われて嬉しいのだろう。
「洗ってくる」
「そうだね」
洗面台に人形を入れ、濡らしたタオルで丁寧に汚れをごしごし落としていく。ついでに伸びた髪の毛を切ってやると、幾分か見られる顔になった。
「おお、美少女じゃないか。よしよし、濡れた髪を乾かそう」
右手で抱っこする。人形の顔が腕にすり寄ってきた。
「最近の日本人形は進んでるなあ。自動で顔が動くのか」
納得して頷きながら、ドライヤーのスイッチを入れ「強」にした。
ブオオオオオン!
凄まじい音、真横に吹き飛びそうな髪の毛を、力いっぱい手を動かして乾かしていく。人形の顔が一瞬般若になった。
「うん、綺麗」
優しい笑みを湛える。人形も穏やかな様子に変化していき、やがて晴臣と同じ微笑みを贈り返した。
「晴友、美少女になっただろ」
「すごい。結構変わるもんだね」
晴臣だけじゃなく晴友にまで褒められ、ますます笑みを深くする人形。
「もう遅いから、風呂入ったら寝るな」
「オッケー」
着替えを取りに自室へ入る。そこには、よしおがベッドの下でうつらうつらしていた。
瞬間、びくりと体が震え、びょんっとよしおが飛び跳ねた。
「ただいまよしお~! 今日も可愛いなあ!」
「グウウウウ」
「どうしたよしおォ、威嚇なんて初めて会った時以来じゃないか。お仕置するか?」
「キュゥキャインキャンッッ」
即座にお手本のような「おすわり」をしたよしおの頭を撫でる。
「よしよし、イイコだなあ。ワンちゃんってどうしてこう、癒されるんだろう」
体いっぱい抱きつき、毛布より温かな毛並みに顔を埋める。
よしおはよしおでまんざらでもない顔をしてみせれば、傍に放られた人形が血の涙を流してよしおを睨んでいた。
「キュキュン! フゥゥゥンッ」
「よ~しよしよしよしよしお~か~わいいな~~~」
「……の……方が……とで呪……」
「ヒィィィィィンッッッッ」
「おもしろい鳴き声だ、新しいギャグか?」
満足した晴臣がようやく人形を手にし、ベッドの学習机に座らせる。もう、血の涙は出ておらず、先ほどと同じく優しい笑みをしている。視線は常に晴臣をロックオンだ。
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