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「はあ、良い湯だった。もう寝よう」
風呂に入ったら、途端に眠気が襲ってきた。元々寝るつもりだったので、何をするでもなく素直に布団へ潜り込む。何故だか、机に座らせたはずの人形が添い寝をしていた。
「よしおが置いたのか? まあ、いいや。人形も捨てられて寂しかっただろうし」
目を瞑ってしまったら何も見えないから気になる程ではない。またベッドから下りて机に置く作業も面倒な気がして、そのままにすることにした。
人形は少々冷たく、しかし熱気を放っていた。
「なるほど。カイロだったのか。良い物を拾った……グゥ」
ものの一分で熟睡体制に突入した。家族からは昔から大した特技だと言われている。ちなみに、この特技は学校でも発揮される。
寝ることに集中していた晴臣は気付かなかったが、よしおは一匹にされてからずっと部屋の隅で犬のぬいぐるみをかき集めて震えている。
眠りについてから三十分、時刻は午前零時。人形がゆっくりと立ち上がった。
「ふふ、ほほほ、ほほ、私、のこと、綺麗って、言ってくれた。私と一緒、ずっと一緒ね。ほほほ、ほほほほ」
地べたを這いつくばって響いてくる地鳴りに、よしおが一層震えを大きくさせる。晴臣は依然爆睡中だ。
「ほほ、ほ、ほほ、この犬、呪ってしまえば、この人には、私、だけ。ほほほ」
「ギュォオオン! キャンキャン!」
「ほほ、五月蠅い犬ねぇ。この人が起きてしまうじゃない」
「キャィイイイ!」
邪悪な煙がよしおを包み込む。
「キュウウ、ウウウウッンンンッ!」
「ほ、ほほほ、ほほ」
「ギャウゥゥガアア」
「ほほほほほほぼ」
「うるっっっっっせえ!!!!!」
「ボウェエッッッッ」
よしおの苦しみが頂点に達した時、晴臣が罵声とともに人形をよしおに投げつけた。
煙に跳ね返された人形が床に叩き付けられ、無残にも首と手がおかしな方向を向いている。よしおの周りが浄化された。
「ほ? ぼぼ、ほ、なぜ、ほ」
「キャン! キャンキャン!」
助けられ喜びを表現し、ベッドへ走り寄るよしお。そこへ追加で枕が投げられた。
「キョワァン!」
「だから五月蠅いって言ってるだろ! 寝られないんだよ!!」
上半身だけ起こしていた晴臣は、それだけ言うとベッドへ吸い込まれていった。
よしおを助けたわけでもなく、むしろ起きていたわけでもない。晴臣は寝相が悪かった。
人形がかたかた動く。しかし、首が折れた状態では満足に力を発揮できないらしく、その場を転がるだけだ。
「ぐ、ほ、ほほ、なんていう仕打ち……まさか、これが噂に聞く焦らしプレイ……?」
人形は俗世に憧れていた。
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