大親友の山田君

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 晴れやかな青空。まるで俺の心だ。雲一つ無い、どこまでも続くそれに、足取りも自然と軽くなる。  今日はなんてことのない日。いわゆる、普通の平日。  普通……素晴らしい響きだ。ただ生きている、窒素と酸素と少量の二酸化炭素を吸って、今日も全てに感謝をしよう。  おっと、もうこんな時間か。早く登校して教室の掃除をしなければ。 「ふう、間に合った」  時計は午前八時、まだ誰も登校していない。よかった、誰かいる中で掃除をしては、埃が舞って咳をさせてしまうからな!  ロッカーから掃除用具を取り出して、素早く掃いていく。日課であるから、無駄な動きもなく効率よく出来る。  一通り終わったところで、一人二人とクラスメイトがやってきた。 「おはよう!」 「お……はよ」  声をかけると、聞こえるか聞こえないか微妙な返事が返ってくる。だいたいのクラスメイトはこんな感じで、みんな実にシャイだ。 「岡崎君、そのホウキ……まだ山田君にやらされてるんだ」 「ああ! 山田君が「教室が綺麗だと気持ちが良い」って言うから」  クラスメイトの朝、赤、あ……なんとか君が尋ねてくる。  その通り! この掃除は大親友の山田君が提案してくれた。山田君はすぐ風邪を引いて学校を休むんだが、ある日俺とプロレスごっこの最中「オマエが毎日掃除してくれたら学校に来てやってもいい」と言ってな。それなら喜んでやろうと申し出た。 「おーう岡崎晴臣ィ、今日も俺の為にごくろうなぁ」 「山田君おはよう。なに、これくらいどうってことないさ」  話題の主、山田君が教室に入り、俺の肩を組んできた。彼は俺がいないとダメらしく、毎日俺と遊びたがる。子どもっぽいが、好かれるのは素直に嬉しい。 「なぁ、ちょっと体ナマってるから、サンドバッグになってくれよ」 「今日はボクシングごっこか。いいぞ」 「サンドバッグなんだから反撃すんじゃねぇぞ」 「わかった」  男子はじゃれ合いが好きだな。俺も男子だけど。  随分イキイキした山田君のパンチを受けていたら、廊下から大きな足音が近づいてきた。 「先生こっちです!」 「まあっ……山田君と岡崎君! イジメの噂は本当だったのね!」 「クソッ……チクったなアイツ!」  誰かと思えば担任教師、はて、イジメとは? まさか、このクラスでイジメが行われているというのか?  なんてことだ! 毎日来ているというのに、ちっとも気付かなかった。苦しんでいる人がいるなんて悲しすぎる。微力ながら俺も力になりたい。 「山田君、岡崎君から手を離しなさい」 「これは遊んでただけで、な、晴臣ィ」 「うん。ボクシングごっこで俺がサンドバッグ役です。楽しいですよ」 「オマエェッ!!」  高校生にもなってごっこ遊びをしていることが恥ずかしいのか、山田君が顔を真っ赤にさせる。 「岡崎君たら、無理に言わされて……それに、その掃除用具は? 掃除の時間は放課後のはずよ」 「山田君が毎朝掃除をしてほしいと言ったので。教室が綺麗なの素敵ですよね」 「うう……っっ日々のストレスで岡崎君の心が壊れてしまっていたのね……!」 「晴臣キサマ、その言い方ワザとか!」  胸ぐらを掴まれた。今度はケンカごっこか。 「俺なら何度殴ったっていいぞ。山田君は遊びの天才だな」 「は、晴臣……ほんとにオマエ……俺の、所為で……?」  俺から離れた山田君が、何故か教室を出ていく。一時間目は自習になった。先生、用事でも出来たんだろうか。そういえば、イジメの話はどうなったんだ。  ああ、運動したらお腹が空いた。三時間目が終わったら早弁しよう。山田君が俺のおかずを欲しがるから今日も二人分用意してきたけど、まだ戻ってこないなぁ。 「んん、美味しい」  結局、四時間目になっても戻ってこなかったので、二人分食べてしまった。具合が悪くなって早退したのかもしれない。明日は元気が出るおかずを作ってみよう。  なんてったって、山田君は大親友なのだ。少しのことでも心配するのは致し方ない。 「早く明日にならないかな」  翌日、登校したら山田君はすでに転校していた。
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