5人が本棚に入れています
本棚に追加
「残念ながら、もう目を覚ます可能性は非常に低いかと……」
小さい頃からお世話になっている主治医の先生の声がする。
「そんな……何か方法はないんですか? 月香を、娘を助ける方法は!?」
この声は……パパ?
「こんなの、あんまりです……月香はまだ、18歳ですよ? 今年の春に医大に合格して、自分も医者になるんだって、頑張っていたのに……まだまだ楽しいこと、嬉しいことがいっぱい待ってるはずなのに……なんで……」
この声はママだ。どうして泣いてるんだろう? 私、何か悪いことしちゃったかな?
「申し訳ありません……手は尽くしましたが、月香さんを助けることが出来ませんでした」
……え、どういうこと?
私、死んだの?
「そんなふうに言わないでください!」
先生の声に、つかさずママが高い声で叫んだ。
「……月香はまだ、生きてるんです。まだ心臓だって動いてるし、手だってこんなに暖かいのに……『助けられなかった』なんて、もう手遅れみたいに言わないで!」
「友香、落ち着くんだ」
私の手を握りしめて、ヒステリックに泣き出してしまったママを、パパがなだめた。
良かった、とりあえずまだ、生きているみたい。
「このようなケースだと、ご家族も受け入れ難いでしょう……これからの治療法については、また明日、ご相談しましょう」
先生がそういうと、両親が頷く気配がした。
数秒間の沈黙のあと、「それでは」とまた先生の声がして、1人分の足音が、病室から出ていった。
「月香……」
重苦しい空気の中、パパとママが私の手をぎゅっと握ってくれた。
だけど私は、その手を握り返すことが出来なかった。身体が……動かない。
最初のコメントを投稿しよう!