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「ねぇ、月香。あなたがもう目を覚まさないなんて、嘘だよね?」
身体が動かなくなった翌日。主治医の先生と両親は、私の横で病状について話をしていた。
どうやら私は、生まれつき持っていた病気が急変して、脳にも影響を及ぼし、植物状態に陥ってしまったらしい。
私は眠りながら、先生の言葉によって得られる私の病状を、頭の中で咀嚼した。
植物状態の患者は動いたり涙を流したり、時には声を出すこともあること。しかしそれは意識が戻ったわけではなく、ただの反射反応であること。
これからの治療は、延命治療か自然に任せて死を待つかの2択になること。どちらを選んでも、私はもう長くは生きられないこと。
このまま脳が活動を停止すれば脳死と診断されること。そうなれば臓器提供も視野に入れてみないかという先生の意見。
「……月香さんは、先日お母様が仰ったように、心臓も動いていますし、自発呼吸も出来ます。爪や髪だって伸びます。たしかに、月香さんは生きています……ですが、目を覚ます確率は、ほぼゼロと言って間違いないでしょう」
「だからって、月香を見殺しにしろって……身体を切り刻んで、顔も名前も知らない誰かに臓器を渡せって言うんですか!?」
「そうではありません! 私としても、幼い頃から診てきた月香ちゃんを助けたい!」
こんなに感情的になる先生の声を聞くのは初めてだ。小児科から私を診てくれていた先生は、いつも穏やかで優しいお医者さんだった。
先生は「すみません」と冷静さを取り戻すと、また話し始める。
「もちろん、ご両親、そして脳外科の先生ともご相談させて頂いた上で、最善の治療を行うつもりです。しかし、事実を知って、覚悟をして頂きたいのです……」
部屋の緊張感が、それまで以上に高まる。軽く触れれば切れてしまいそうな張り詰めた空気が漂っていた。
「……今の月香さんの状態から考えて、彼女の余命は恐らく……長くても半年くらいかと思われます……」
パパの息を飲む音と、ママの嗚咽が聞こえる。
……あぁ、私、死ぬんだ。
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