「反射反応」と「ありがとう」

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 身体が動かなくなってから、1ヶ月と数週間が経った。……と言っても、ママが毎日教えてくれる日付が頼りだから、もし嘘をつかれていたとしても、それを確認する術は私にはないけれど。 「月香、今日はお友達が来てくれたよ」  そんなある日、ママの声と、数人の足音が聞こえる。 「月香ちゃん……嘘でしょ」 「月香のばか! 早く起きろよ!」  この声は……彩芽(あやめ)ちゃんと穂乃果(ほのか)ちゃん!  2人は高校で出会った親友だ。今すぐ目を開けて2人を抱きしめたいのに、なんで身体が動かないんだろう? もどかしいなぁ。 「月香ちゃん、早く目を覚まして。一緒に遊びに行こうって約束したでしょう?」  彩芽ちゃん……ごめんね、私もう、目を覚まさないかもしれないんだ……。 「勝手に死ぬとか許さないからな! 月香が死ぬなら、あたしもここで死んでやる!」 「穂乃果ちゃん! こういう所で死ぬとか言っちゃダメだよ」  穂乃果ちゃんは相変わらず元気な子だ。よく通る声も変わらない。  2人とも元気そうで良かった。あとは私が元気になれればいいんだけど……私はもう二度と、目を覚まさないまま死んでしまうかもしれないのだ。  もう一度、2人の姿を、パパとママの顔を見たい。  だけどきっと、それは叶わない。  ……そっか、私、もう死ぬまで目を覚まさないんだ。  そう思うと急に胸が苦しくなった。  鼻の奥がツーンと痛くなって、目尻から溢れた熱い液体が落ちていく。 「……え? ねぇ、月香ちゃんが泣いてる! 起きてるんじゃない!?」 「マジで!? 月香、聞こえてる?」 「それは違うの……反射反応なんですって」  慌てて大声を出す2人に、ママが静かな声で言った。 「植物状態の人は、手を動かしたり、涙を流したりすることがあるのよ。この間は目を開けたり、微笑んだりしてたの……でも月香に意識はないんだって、お医者さんが言ってた」  2人の喜びが、風船みたいにしぼんでいくのがわかった。  たしかに手を動かしたり目を開けたり、笑ったりした覚えはない。だけどママ、今の涙だけは違うんだよ。今、私は死ぬのが怖くて泣いてる。反射反応なんかじゃない。
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