世話してるのこっち

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世話してるのこっち

 やっと千裕の友達も帰り、あたしは美味しくもないコーヒーを淹れてリビングに移動した。 「……仕事増やさないで」  小さく、でもわざと聞こえる音量でぼそっと言うと、ノートパソコンを片付けてる途中の千裕がじっとこっちを見た。 「来客用の飲み物やお菓子とか用意してないのに、断りなく呼んで。何を出せばいいのかわからなかったし、慌てたんだからね」 「……俺が増やしてるわけじゃないだろ。全部そっちが勝手にしたことじゃん」  同じようにぼそぼそした千裕の声があった。  ……何、言う気? 「あんたがやらないから、あたしがしてるんじゃない。仕事も家事も何もしてないくせに。世話してるのこっちってわかってる?」  その瞬間、タンッと、何かが硬い表面を叩く音がした。  見ると、千裕の握りこぶしがリビングの壁に当てられていた。  少しして、ゆっくりと低い声がこぼれた。
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