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2.欠けた当たり前
いつの間にか何処かに到着したのだろう、
目が覚めた時、重力は当たり前に置き換
わり、心は平常心で周りを見渡す。
見渡し始めてすぐに、
ここが何処かの歩道の上だと気づき、朝になっている事と、
周りは高いビルや住宅がずっしりと敷き詰められている事を見て理解する。
「僕に、何が......。」
一つ一つ整理していくことに、
今は時間を費やし、その後一通り整理を終え、立ち上がる。
「立ち止まってるだけじゃダメだよな、まずは行動あるのみだ、と」
足を前に踏み出し、二、三、四と歩き続ける。
何分か経ったのだろう、人通りがだんだん多くなり、賑わいを見せ始めたのが見て分かるほどに周囲は人で混んでいる。
そんな時、
違和感を覚える事態に遭遇した。
ここは何処だろうかと周りを見渡して歩いていたせいだろう、
目の前を歩く通行人に、一瞬の油断でぶつかった──。
確かに今ぶつかったはずなのだ。
だが、感触は無かった。
空気に触れたのと同じ感覚。
そこに存在するのは、空気のみだと思わせる事態。
「えっ? 通り抜けたのか......?
僕の身体が他人の身体を、いや、もしかし
たらあっちの方が通り抜けた......?」
驚きのあまり声が飛び出す。
どちらにしても、奇妙な出来事に遭遇した事に変わりは無いのだが、
一途の希望を込めて、
自分以外が普通とはかき離れた状態なのだと
思い込もうと努力した。
だが、その可能性は絶望的なんだ、
と昨日の不可思議な体験が証明しているように思える。
やはり今までに体験した事が無い為、
信じ難く、信じたくない、そんな思いでいっぱいだ、いっぱいだったのだが。
──今まで?
昨日の夜以前の事が思い出せない。
そんなことに、今の今まで気づかなかった。
人を通り抜けた事態、そして記憶が無い。
二つの事態が、昨日の奇妙な痛みと移動によるものだろうか?
と頭によぎったのは、この場合、必然的な事だっただろう。
周囲の足音、人の声、騒音。
その中に1つこちらを目指すものがあり、
それはこちらに話しかける。
「そこの君、
君ももしかして、こちらに突然来てしまっ
たのかい?」
事態の深刻さゆえ、
周りに居る人など気に入らなかった。
そのためだろう、一瞬自分に話しかけられていると、今この時、全く分からなかった。
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