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第1幕「士官学校」
「やあ、みんな。おはよう」
貴族の子息たちが通う士官学校。
高等部三年で生徒会長を務めるアルフォンスは今日も健やかだった。
アッシュグレーの髪に端正な顔、そして青い知的な瞳は物語に出てくる王子様さながらで、きっとここが士官学校ではなく共学の学校だったら、女子たちの黄色い声援が飛び交っていたであろうことは想像に難くなかった。
「おはようございます」
「おはようございます。お兄様」
アルフォンスの同級生のセレスティーノと、アルフォンスの義弟で二つ年下のルカが笑顔で挨拶を返した。
アルフォンスはルカを見て「こら、学校では先輩……だろ?」と優雅に嗜めた。
「ふふっ、ごめんなさい」と少しも反省する様子のないルカ。
そんなルカの様子に肩を竦めてやれやれと思いながらも気を取り直したアルフォンスは「さぁみんな。教練の時間だ」と高らかに宣言した。
三人は士官学校の中で特に目立つ存在だった。それぞれが名門貴族の子息というのもあったが、三人ともに剣術や戦術、援護や防衛などにおいて非常に優秀な成績を誇っていた。
そんな三人の様子を少し離れた場所から見つめる一人の男装の麗人がいた。
彼女の名前はクリスティーヌといった。
「あの男がそうなのね。……偉そうに。
見ていなさい。必ず証文を取り戻して見せる」
事の発端は彼女の父親の借金だった。
どこまでも善良で領民に優しく、自らの生活の糧であるはずの徴税権さえ不作の時には減税や免除をしてしまう。そんなあまりにもお人好しの性格は領民たちに好かれてはいたが、内実は火の車であった。
そして大飢饉が起こって領民たちが飢えに苦しむようになったとき、彼は隣りの領主に助けを求めて証文を交わした。それがアルフォンスの父だった。
そして昨年、そのアルフォンスの父が流行り病で早逝してしまってからは息子であるアルフォンスに家督が移っている。問題の証文もアルフォンスの管轄になっているのは間違いなかった。
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