18 鎮魂

1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

18 鎮魂

               *  遠くで、大気を揺るがす衝撃音が轟いた。隕石でも墜落したかのような。   気がつくと草むらにいた。視界いっぱいの夜空。どこかの山上だ。房江とヤブキと仲嶋が、周りに倒れている。  強大な〈力〉が行使されたのだ。複数体を遠距離に跳ばした。  わたしの胎児()がしたことだ。畏れに似た思いを、満裡は我が子に抱いた。  あなたは(レクス)に関わることになる──房江の言葉が蘇る。満裡は確信する。  この胎児()こそが(レクス)だ。冥種の新たな(レクス)……  房江は息絶えていた。閉じた目も口元も穏やかだ。為すことを為したという顔をしていた。涙が溢れる。それはボタボタと房江の顔に落ち、貼り付いた血糊を洗った。  呻き声が聞こえた。ヤブキだ。生きている!  満裡はにじり寄った。 「ヤブキくん! わかる?」かぶさるようにして、呼んだ。 「……どうなった?」満裡を見上げる。「怪我は、ないか?」 「わたしは大丈夫」 「よかった」目の光が遠のいてゆく。 「いやだ。死なないで、ヤブキくん。死んじゃったら、なんにもいいことなかったじゃない!」  撃たれた腹部は血まみれだ。望みはない。  ヤブキの手が上がり満裡の頬に触れた。その手を両手で包み込んだ。 「わたしを守ってくれた。ヤブキくん、強い」  ヤブキの唇が笑った。  満裡は包んだ手を握りしめた。 「ネム……」見つめてくる。が、目の焦点はすぐにぶれる。  とっさにヤブキの唇を吸った。口腔に、微かな息が揺れている。だがそれは、ゆっくりと、蝋燭の火が消えるように失せていった。  光の消えた目を満裡は掌で閉ざした。額に乱れた髪を直してやる。  逝ってしまった。わたしの兵隊さん……  仲嶋が半身を起こしていた。房江とヤブキの姿を悼むように見つめている。「何が起きたのか……訳がわからない。とにかく移動しましょう。町に出てネットワークに支援を求めます」 「この人たちを残していけない」 「無論です。すぐに回収を寄こします。やつらの標本にはさせない」タブレットのGPSで座標を確認しながら、彼は言った。  遠くでサイレンが聞こえる。衝撃音の聞こえた方角から。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!