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間宮がキッチンから二人分の食事をトレーに乗せてくると、自分と愛衣の前に置く。千夏が「私のは?」と聞くと間宮は至極真面目な顔をして答えた。
「二人分までしか持てなかったからね。君は自分で取って来なさい」
「何よ、二人の時間邪魔されたからって、露骨な態度取っちゃって。狭量な男は嫌われちゃうわよ!」
口を尖らせる千夏に、愛衣が慌てて立ち上がる。
「私、持って来ますから。千夏さんは先に、こっち食べてて下さい」
自分の前に置かれた皿を千夏の方へと寄せる愛衣に、間宮は愛衣の腕を掴むと座らせて「愛衣ちゃんを動かすくらいなら私が持って来るよ」とキッチンへと戻って行った。気まずい空気に愛衣が千夏の方を見ると、口元がやけににやついていた。
「千夏さん…わざとですか?」
「愛衣ちゃん良い子だから、そう言ってくれると思ったのよ。で、愛衣ちゃんがそんな事言ったら弦が黙ってる訳ないもんねぇ?」
弦ってば本当に愛衣ちゃんに夢中なのねー、と楽しそうにしている千夏を眺め、愛衣は少し溜息を吐いた。千夏はおや、と愛衣を見る。
「弦さんって千夏さんに対しては遠慮が無いって言うか…ちょっと羨ましいです」
「あらら、雑に対応されてるだけよ?」
それでも、と思ってしまうのは無いもの強請りなのだろうかと愛衣は落ち込んだ。自分が弦に大切にされているのは十二分に分かっているし、丁寧な態度も嬉しかった。けれど自分には見せない面を前妻には見せている事を知って、何だか複雑な気持ちになってしまった。二つは相反するものだから両方手にする事はないと理解はしていても、羨ましい気持ちは心に燻ってしまう。
「弦の愛衣ちゃんに対するアレは、本人が素でやりたくてやってるはずだから…素直に甘え倒しちゃいなさいよ」
「千夏さん…」
パチリとウィンクをしてみせる千夏に、愛衣も思わずふふっと声に出して笑っていた。「やっぱり可愛い~! 愛衣ちゃん今夜は一緒に寝ましょうよ~」と言った千夏に、料理の皿を持って戻って来た弦は不平の声を上げる。
「千夏、それは許さないよ」
「…お早いお戻りで」
間宮が千夏の前に皿を並べると、千夏は軽く「ありがと」と言って愛衣へと向き直る。食事をしつつも、痛い程の熱視線に愛衣が気恥ずかしく感じていると、間宮は「愛衣ちゃんは私の事見てればいいよ」なんて言うものだから余計に顔を赤くした。
「ねぇ、二人の出会いってどんななの?」
食事を口に運びながら、千夏は事も無さげに問い掛けた。示し合わせたように間宮と愛衣は同時に顔を見合わせた。“愛衣の逆ナンじみたソフレ交渉から始まった関係”とは容易には言葉にし難いものがあった。仮にも千夏は間宮の前妻であったので、妙な印象を持たれたら…と眉を顰める愛衣の表情に、間宮は小さく笑って見せた。
「それは秘密、だよね」
愛衣の目をしっかりと見て優し気にそう言うと、間宮は千夏にはバレないようダイニングテーブルの下で愛衣の膝をそっと擦った。触れた箇所が熱いぐらいに感じた愛衣は「ひゃ、ひゃい。そう、秘密!」と盛大にどもりながら答えた。
「ふぅん?」
千夏は訝し気な表情を主に間宮へと向けたが、間宮は取り合う様子も無く食事を口に運ぶ。テーブルの下で遊ぶように触れて来る間宮の手の熱に、愛衣は背筋をゾクリと震わせた。
(今日は出来ないのに…生理来てるし、何より千夏さんがいるのに…)
こんなに熱を欲しているのは自分だけなのだろうか。
愛衣はこっそりと縋るような視線を間宮へと向けた。
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