3 嵐は突然に

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気が付けば間宮は全員分の食器を下げ始めていたので、愛衣は今度こそはと立ち上がるとシンクの前に素早く移動をしてスポンジを手に陣取った。そんな愛衣の様子に間宮は苦笑して見せると、「安静にしていて欲しいなぁ」と呟く。 「今日はそんなに痛くないから大丈夫なんです」 間宮は持っていた食器を愛衣の届かない戸棚の上に避難させてしまうと、スポンジを取り上げて濡れた愛衣の手をタオルで丁寧に拭く。流れるような動作に呆気に取られた愛衣がされるがままになっていると、その身体を軽々と抱き上げられリビングまで強制送還される。 そのままソファーに優しく下ろされると、頭を撫でながら啄むようなキスをされる。完全にあやされている事に気付き、頬を膨らませた。いつもならされるまま受け入れるところだったが、千夏との気の置けない関係性に少なからず嫉妬していた愛衣は間宮の肩をぐいと掴むとそのまま深いキスを仕掛ける。いつも間宮がするように軽く唇を舐めてから舌を差し入れると、間宮が微かに笑ったような気配がした。 しかしキスをする時には必ず目を瞑ってしまう愛衣には確認出来ず、そのまま絡めるように動かすとそれまで大人しくしていた間宮は途端に愛衣の腰を抱き寄せ、後頭部を押さえるとあっと言う間に主導権を奪い取ってしまった。 角度を変え、舌先で歯列をくすぐり、互いの唾液が完全に混じり合った頃になってやっと、間宮は愛衣の唇をそっと解放した。その頃には愛衣の息は甘い音を奏でながら乱れており、間宮はもう一度頭を撫でると「ゆっくりしてなさい」と言ってキッチンへと戻って行った。程なくして水音が聴こえてくる。間宮が洗い物を始めたのが分かったが、もう一度乱入した所で同じように返り討ちに遭うのは目に見えていた。愛衣は諦めてそのままソファーに身を沈める。 「…あ、千夏さんは?!」 すっかり忘れていたと慌てて見渡すが、室内に千夏がいる様子は無い。ホッと息を吐いて安心すると、キッチンの水音とは別の方向から鼻歌が聞こえてきた。千夏はいつの間にか風呂に入っているらしい。見られていなくて良かったと思っていると、洗い物を終えたらしい間宮がリビングまで戻って来てソファーの隣へと腰掛けた。愛衣の安堵の表情に察したのか「私がテーブルの下で愛衣ちゃんに悪戯している時に千夏、『食べたらお風呂借りて良い?』って聞いてきてたんだ。愛衣ちゃんの耳には届いて無かったかな?」と可笑しそうに笑うと、愛衣の身体を抱き上げて自分の膝の上へと移動させた。 「千夏がお風呂から出て来るまでの間、二人の時間楽しもうか」 「あーら、弦ってば隙あらばそんな事…昔より性欲強くなったんじゃない?」 悪戯を思い付いた子どものような表情をしていた間宮に被せる形で、リビングに千夏の声が響いた。いつの間に開けたのか廊下に続くドアが開いており、その先には手持無沙汰な様子の千夏がタオルで髪を拭きながらこちらを呆れたように見ている。愛衣は慌てて膝の上から退こうとしたが、間宮にしっかりと腰に腕を回されていて動く事が出来なかった。動じる様子もなくそのまま「早かったね」と対応する間宮に愛衣の方が二人分慌てているようだった。 「私がカラスの行水並なの知ってるくせに。牽制したいからってそんなに見せつける? 愛衣ちゃん、こんな(ヤツ)止めといた方がいいわよ?」 憐憫の情たっぷりといった千夏の言葉に、愛衣は恥ずかしさで顔を上げられないまま「私もお風呂に入って来ます~!」と言うと、何とか間宮の腕を逃れ、千夏の脇をすり抜けて脱衣所へと駆け込んだ。 ドアの向こうから「可愛い~、弦には勿体ないわねぇ」とか「だろう? 君には絶対あげないよ」などと聞こえて来た気がしたが、愛衣は無心で服を脱ぐと浴室へと籠った。温めのシャワーを顔に浴びると、紅潮した頬の熱が少しずつ引いていく。 「うう…千夏さんに恥ずかしい所見られちゃった…」 愛衣の小さな嘆きは浴室内に掻き消えていった。
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