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嘘つき、始めました。
ずっと優等生だった。
真面目に勉強したし、運動も手を抜いたことはない。
不器用なりに、家庭科のエプロン作りも、図工の木製パズルも、音楽のフルートも頑張ったんだ。
全部全部、先生が好きだったから。
「担任の久田先生はこの度ご結婚されることになり、それに伴い、来週より転勤が決まりました。急なことで皆、驚いたかもしれないが、久田先生には沢山お世話になっただろう。皆、笑顔でありがとうと言おうな。久田先生の後任は来週来られることになっている。新しい先生の言うこともちゃんと聞くんだぞ」
校長先生の話を聞いて、僕の頭は真っ白になった。
「田辺君、今までありがとうね。田辺君は本当にいい子で、先生とっても助かったの。新しく来られる先生のことも、助けてあげてね」
久田先生の目は涙ぐんでいた。
「ご結婚、おめでとうございます。先生、幸せになってくださいね」
僕は笑顔で祝福した。
生まれて初めて自分自身に嘘をついた。
めでたくなんてない。幸せになってほしいなんて、思っていない。
先生の結婚で、僕は、嘘つきを始めた。
「田辺君、よろしくね。久田先生から聞いているわ。君はとっても良い子なんですってね」
後任の女教師の言葉に、僕は笑顔で「ありがとうございます」と答えた。
優等生なんてやめる。もう、頑張る理由なんてない。それなのに……。
僕は、今日も笑顔で嘘をつく。
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