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事務所のソファーに背を預け、遠藤は紫煙を吐いた。ブラインドの奥から月明かりが差し込んでいる。 「まさかそこに関係性があったとはな。」 まとめた書類に目を通し、佐々木康之と葛城由紀子の関係を記す字を眺める。日翠山に訪れたという佐々木の証言からして、そのトイレで身籠った子が葛城美智花とみて間違いはない。 「そりゃ秀夫は行ったことないって言うよな。行ったのは妻なんだから。」 現在佐々木康之は下の階に匿っている。霊を防ぐ、防霊技術。永島が貼り付けた呪符の中で彼は熟睡することはできるのだろうか。 「それと、由紀子に霊が憑いた。」 身を乗り出して遠藤は驚きの言葉を漏らした。 「どういうことだ。」 「美智花ちゃんの霊、つまりは新田夫婦と中村一家の計5人の霊が由紀子に取り憑いた。しかし彼女の目を見ても心霊現象が起きない。」 「確か、数秒間目を見たら、だったよな。」 永島は鼻から息を抜いて頷いた。 「セキュリティーが甘くなった、と考えていいかもしれない。外敵を寄せ付けない警備が無くなった代わりに別の何かに霊障を与えている可能性もある。それはおそらく人じゃない。」 「美智花ちゃんのおもちゃ、とかか。」 再び頷いて永島は椅子から立ち上がった。書類を整えてから言う。 「新田夫婦の目的は、家庭崩壊だ。幸せな家族も、ぎくしゃくしている家族も、全てを壊そうとしている。それにあの家、どうもおかしい。」 灰皿にタバコを押し付け、長い煙を吐く。紫煙の向こうで永島は口を閉ざしていた。遠くからクラクションが鳴る。単なる怪奇現象ではないことは最初から分かっていたものの、だからこそ難航していた。夜はいつも以上に長かった。
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