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葛城家に戻る道中、由紀子が目を覚ますことはなかった。自宅に送り届けて玄関の手前で見送る。2人が家の中に戻ったタイミングで何故か永島は黒い門を開けた。 「おい、友哉。どうしたんだよ。」 ポケットから携帯を抜いてライトを起動していた。彼の足元が照らされる。遠藤も後を追った。 ゆっくりと家の周りを歩いていく。鈍色の砂利を踏んで音が鳴る。少し狭い庭を抜けて玄関から反対側に辿り着いた。月明かりで微かに照らされた横顔は渋い表情だった。 「これ、見ろ。」 携帯のライトで照らした先、真っ白な葛城家の外壁に、黒い泥が付着していた。それは先程跡地で由紀子の周りから噴き出したものと同じだった。遠藤は慌てて彼の隣に立ってその泥を見た。 手に付着した泥をいたずらに塗っている。そんな印象だった。永島はゆっくりと泥に手を伸ばした。彼の指先が泥を掬い取るように動く。しかし彼の指の腹に泥は付いていなかった。すぐに印象は変わった。誰かが付けたというよりも、最初からこういう柄だった、という方が近いかもしれない。永島は小さく呟いた。 「生命は水から生まれた。そして人は土に還るっていうよな。昔から俺たちの世界で泥というものは生と死をいたずらに組み合わせたものと考えられていて、霊を呼び寄せる手段に使われるんだ。」 外壁に滲む泥のシミ。遠藤は視線を逸らすことができなかった。 「おそらく、他の霊も呼び寄せようとしているのかもしれない。」 2人のため息が重なり、永島は携帯のライトを消した。それでも壁に張り付いた泥のシミは薄い闇の中で浮かんでいた。
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