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除霊のセットを片付け、葛城家のリビングはいつも通りの内装になった。夜11時過ぎ、6人は客間にいた。意識が朦朧としている永島は壁にもたれ、由紀子はベッドの上で意識を失ったまま目を瞑っている。痩けた頬に隈のある目。髪は少し脂ぎってあちこちに跳ねている。窓を開けてその手前にある椅子に腰掛け、タバコを燻らせる遠藤に秀夫は言った。 「病院には連れて行かないほうがいいんだよな。」 「ええ。今この状態は由紀子さんの体内にいる霊が活動を停止しているだけです。今外に出して無理に刺激するのは危険です。」 10数年以上永島と仕事をしていれば、ある程度の知識は身に付くものだった。霊と由紀子の意識はリンクしている。だからこそ彼女が目を覚ませば再び霊は活動を始めるだろう。 「ただ、必ず祓います。」 携帯灰皿にグレーの滓を落とす。煙を吐いて遠藤は続けた。 「何故夫婦2人の怨霊がここまでの力を持っているのか、もう一度詳しく調べる必要があります。それに5年間で霊力も高めているはずです。だからもう少しだけ待ってくれませんか。」 その時に遠藤は自分が頭を下げていることに気が付かなかった。自然と腰を折って葛城家に頼み込んでいる。 「必ずこれを崩す鍵があるはずなんです。だから、時間をください。お願いします。」 秀夫のことだ、断られるかもしれない。そんな不安があったのだろう。ここで自分たちが引き下がればこの霊は活動を再開して、5年前の悲劇を生み出すかもしれない。だからどうしてもこの一件には縋り付くしかなかったのだ。 「遠藤さん、顔上げなさい。」 遠藤の頭上に秀夫の声が降る。厳しく芯の通った声ではなく、優しい声色だった。 「ここまで我々家族のために動いてくれて、今更突き返すなんて、そんなことはしないよ。君たちを信じることにした。だから、必ず祓ってくれ。」 思わず涙ぐんでいたため、なかなか頭を上げることが出来なかった。すると腰を折ったままの遠藤の足に手が触れた。小さなぬくもり、美智花が心配そうに見上げて言う。 「おじちゃん、泣かないで。」 差し出されたハンカチが歪んで見える。遠藤はそれを受け取って一度だけ涙を拭った。深く息を吸って顔を上げ、秀夫、慶の顔を見て頷いた。
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