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遠藤と永島は埼玉県飯能市で生まれ育った。永島の住む家は山の上にある永島神社といって近所でも有名だった。そして遠藤の住む実家から程近い距離だったためにいつからか遊ぶようになっていた。 永島に霊感があると分かったのは7歳の頃だった。 いつものように学校から帰る道中、畦道の途中で彼は言ったのだ。 「泰介くん、あの白いの、なんだろうね。」 目の前に広がる田園はなだらかなまま、その先を指差した彼には何かが見えていたのだ。後から聞いた話によればその白いものはその土地に根付く農作物の神様のような存在で、誰かが彼を目撃すればその土地は豊作になるという言い伝えがあったらしい。現にその年はどの農作物も状態が良く、飛ぶように売れた。 永島が初めて除霊を行ったのは12歳の頃だった。 2人が通っていた小学校には都市伝説のようなものがあり、それは卒業式になると体育館に現れる霊が、天井に挟まったバレーボールなどをいたずらに落としてくるというものだった。 そして遠藤たちの卒業式がやってきた。皆椅子に座って校長の長い話を聞いている中、遠藤の斜め後ろ、少し奥の方に座っていた永島が突然立ち上がったのだ。親御さんや教員が困っている中、彼は天井を指差した。 「おれ、あれ、はらえるよ。」 今思えばその時、永島の父親は来ていなかった。彼の母親は2歳の頃に事故で亡くなっており、男手一つで育てられたのだ。何か行事があっても神事だと言って学校に訪れることはなかった父親の代わりに、永島はその場で霊を祓ったのである。 遠藤は面倒見がいい性格だと、通信簿には書いてあった。 不良だと言われればそれまでだが、いじめられている子を助けるために他校の男子生徒と喧嘩することもあり、そのため同級生や後輩、はたまた先輩から相談事を頼まれることもあった。その2人に心霊関係の相談事が舞い込むことは自然な流れであった。 そして2人は17歳の時、ある事件に出会った。
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