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地下室から出ると木本は放心状態に近い表情で言った。
「その指さ、まさかとは思うけど。風見の親の指って可能性はないよな。」
恐る恐るそう聞いたものの、遠藤も同じことを考えていた。
「多分そうだと思いますよ。知らない人の指だったら余計に怖いでしょ。」
「俺からすればどっちも知らない人の指だわ。あー怖い。あれ、松尾さんどこ行った?」
彼女の姿はなかった。浴室から出て短い廊下に出る。居間を覗くと、彼女は低い電話台のような棚の前にしゃがんでいた。
「何かありましたか。」
「ええ。これなんだけど。」
そう言って松尾は躊躇うこともなく白い紙袋を掲げた。何か書かれてはいるものの、どうも掠れていて読み取れない。
「これ、薬だよ。」
「薬ですか。」
「ええ。ほら、ニトロールって書いてあるでしょう。狭心症の薬だわ。」
目を凝らして掠れた字を読んだ。時折読み取れる字から推測して、これは風見貴子に服用されたものだった。遠藤の隣で同じように袋を見つめる木本が呟いた。
「この病院、すぐそこだな。今もあるぞ。」
「行って話聞いてみますか。」
早々に平屋から出たかったのは遠藤だけではなかったようだった。3人はそそくさと居間を抜けて玄関の引き戸を開けた。
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