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天の助け。
砂漠のオアシス。
勇作は迷わずその店に飛び込んだ。
勇作を出迎えたのは、鉄鍋を振るう音でも、炒め物の匂いでも無かった。
それどころか、全く予想だにしなかった爽やかな女性の声だったのだ。
「いらっしゃいませぇ。ボンジョルノへようこそ。現在、店内夏物半額セール中です。どうぞお手に取って、ご覧くださーい」
よくとおる女性の声。
ボンジョルノのルの部分は実に鮮やかに巻き舌が織り込まれていた。
イタリアンなこだわりを感じはしたが、だからと言って予想外の展開に驚かないわけでは無い。
「え?」
勇作は店に入ったところで立ち尽くした。
彼の視界に飛び込んで来たのは、とてもじゃないが場末の中華屋とは呼べない様々だった。
並んでいるマネキン。
綺麗にたたまれ、ディスプレイされた洋服達。
店内にはなんかお洒落な音楽が流れ、店員達も妙に着こなし上手な連中ばかり。
「……え?」
振り返る。
店の入り口である自動ドアのガラスには、確かに張り紙がされていた。
反対側からも透かしで「冷やし中華始めました!!」という文字が反転して見えている。
「え?」
目をごしごしとこすってもう一度店内を見回すが、どう見てもそこは洋服を売っている店だった。
「冷やし……ん?」
冷やし中華。
そう呼ばれるカテゴリの衣類が登場したのだろうか。
シースルーのチャイナ服とか?
だが、そんな奇抜な衣類は店内に見当たらない。どちらかと言えば着やすそうなカジュアルな物が揃っているようだ。
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