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二日目にあなたのいる別邸に再び来てみると、あなたは私よりも早くに縁側に腰を下ろしていた。待って、いたのだろうか。思わずそう疑ってしまった。
「……今日は、来るかしら」
完全に、気づかれている。私は思った。この者は武術か何かを心得ているのだろうかと思って、堅く閉ざしていた口を思わず私は緩めてしまった。
「……あなたは、私に気付いているのか」
あの、桜の木に隠れながらそう小さな声で呟いたのを、あなたは聞き逃さなかった。
「あぁ! あなたでしたか? 昨日、この庭にいたのは。てっきり、私は猫か何かかと思っていたのですが」
あなたの目が、輝いたのが見えた。こちらというよりも、庭先の木という木に視線をやって、私を探しているのが分かった。純粋で、可愛い人だと思った。その純粋さを変に勘ぐって、正体に気付かれた私はまだまだ未熟だったとも言える。
「……ええ、私です」
「そうだったのですね。それにしても、どうしてここへ? 」
「それは言えません。言えば、あなたをここで殺すことになってしまう。そして、もし私の存在を他言した場合も同様だ。一晩でこの家の者を殺す」
そう告げるとあなたはうつむいた。
「そんな……。言わないわ、言わないし、私は良いんです。誰かと話せることが、嬉しいんです。最後に、あなたに殺されてもいいわ」
殺されてもいいだなんて、簡単に言うとは。思わず笑ってしまいそうになる。
「あなたは、随分と変わっているな」
「そしてここには人が来ないのです。姿を見せてはくれませんか? 一緒に向かい合って話をしませんか?」
「……それはダメです」
「まぁ……随分と頭の堅い人なんですね」
「ええ、そう言われても構いませんから」
三日目も四日目も、こんな調子で話をした。もちろん、仕事をきっちりと行ってから。次第にその家の事情も分かってきて、私の上司へと報告すると次第に任務も最終段階へと向かっていく状況を私は悟っていた。それでも、現状維持ということで現場の密偵をしばらく頼むと言われ、またあの家へと向かう。
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