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カラカラ車輪が廻る音が青空に溶ける。
冷房で冷え切った身体に、太陽の輻射熱が芯を焦がすように照りつける、9月半ばの快晴。
夏と秋の境界線のような空が、坂道の下まで続いていた。
だらだらと緩い勾配の道に、靴裏を擦りながら、俺の自転車の後ろに乗る村瀬がひときわ大きなあくびをした。
「ふあぁ……ねむっ」
「寝不足?」
運命的腐れ縁とか、万有引力コンビだとか。
呼ばれ方は様々だったけど、小学校の時から村瀬がすぐ隣にいるのが当たり前だった。
だから高2になって、クラスが初めて別々だと知った時も、仁志と長月が同じクラスだからまあいいや、くらいに思っていたのだ。
「ちょっとなあ、色々考えごと」
村瀬の低い声が、肌に触れる。
ほんのりと涼しい秋風の冷たさに似ていた。
「寝不足になるとか、大丈夫?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチは90分しか寝ないから大丈夫」
「またまたぁ」
なんで、背の低い俺がいつも前なんだろう。
とか。
なんで、告白してくる女子をすぐに振るのだろう。
とか。
思い返すと、疑問は山のようにあったけど、そんな下らないことをわざわざ改まって訊くほどの仲でも無かったし、どうせずっとこのまま俺たちの日常は変わらないのだから、いつでもいいや。
とか……──
「なあ、宮森ってさ、─ ── ──」
「え、なにっ? 聞こえない!」
「いや……なんでもないよ」
なんで俺は、ちゃんと振り返って、村瀬の顔を見なかったんだろう。
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