言葉はいつも薄っぺらいよ

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拳を握りしめ、テーブルを迂回して用意されたソファ席へと腰をおろす。 ソファの端には大人しくなった仁志が選曲しているのか、リモコン操作に夢中。右隣にはボブヘアの花園女子。そして俺。左隣は黒髪セミロングの花園女子。だめだ、緊張してきた。 「ど、どり、ドリンクをっ」 緊張で喉がへばりつきそうで、嗄れた声を絞り出し、遠くに置かれたドリンクメニューに手を伸ばす。リーチが短すぎて届きそうにない。 「あ、良かったら、これ飲みます?」 伸ばした手を、つんと、白い指に押されて。 「ふえっ」 緊張で声が裏返る始末。 あぁ、ほんと最悪。やっぱり俺、合コン向いてない。帰りたい。 「ふふっ、緊張するよね。私もさっきから喉がカラカラで、ドリンク間違えてニつも頼んじゃって」 そう言って、テーブルに置かれたミルクティーを手渡してくれた白い指の彼女は、俺の左隣に座る黒髪セミロングの女の子。とても合コンには来そうにない、清楚な雰囲気の子だった。 「はは、ほんとこういうの苦手でさ」 「わかる、何喋ったらいいか分かんないもんね」 「だよね。名前聞いて、その後の会話を続けるのも四苦八苦だし」 苦笑しながら手にしたミルクティーに口をつける。甘い。 「じゃあ……名前、聞いちゃおっかな……」 肩にかかる黒髪がさらりと揺れて、柔らかい微笑にどきりとする。   俺と同じミルクティーをストローで飲む彼女が、黒目がちの瞳をじっと俺に向けた。 「え、ええと……み、宮森」 「下の名前も、訊いていい?」 「あ、あき。季節の秋」 「秋くんかぁ、すごく素敵な名前。一番好きな季節だし、なんだか得しちゃったな」 嬉しそうに、またストローを咥える彼女は、うちの高校の女子よりも大人びて見える。 すっと高い鼻すじは、嫌味の無い綺麗な横顔にぴったりだと思った。 「得したって……何が?」
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