言葉はいつも薄っぺらいよ

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「秋くん、これ飲んでいいよ」 突然名前を呼ばれて、どきりと心臓が跳ねる。左隣の子だろうかと思って振り返ると、俺の右隣に座っているボブヘアの女の子がにこりと笑った。 あれ、名前、教えたっけ? もしかして、さっき左隣の子と話してたの聴いてた? 浮かせた腰を再びソファにおろすと、すっと目の前に差し出されたのは、フルーツ系と思われるジュース。 「あの、これ」 「まだ飲んで無いし、飲んでいいよ。次、自己紹介でしょ?」 夏の晴れた空が似合いそうな、その明るい笑顔は、重苦しかった胸の詰まりをほんの少し解してくれるみたいだ。 「ありがと。助かったよ」 お言葉に甘えてグラスを受け取り、ジュースを口に含んだところで、 「じゃあ次、宮森な。自己紹介よろしく」 長月の声に、軽い緊張が背筋を走る。  みんなの視線が俺に注がれ、意を決して立ち上がろうとしたとき、俺の右腕がくいっと引っ張られた。 「ちなみに、」 先ほど口に含んだ甘酸っぱい林檎味みたいな声で、俺の耳に顔を寄せて右隣の子が囁いた。 「私の狙いは秋くんだから。よろしくね」 「ぐぶぉっ!」 噴き出した林檎ジュースは聖水のように、室内を華麗に舞い散ったのは、言うまでもない。
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