言葉はいつも薄っぺらいよ

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鈍感だとか。天然だとか。抜けてるからとか。 そんなワードが頭の中を旋回する。  ぐるぐる。得も言われぬ不安が、胃の中で渦を巻いているのが分かる。 「別に……何も」 それほどに、目の前の村瀬の瞳には怒りの様な色が滲み出ていて。その理由が全くわからない。なんで、村瀬がこんな顔をしているのか、全然わからない。 「……まあ、宮森の好きにすれば」 トイレに来たはずなのに、村瀬は身体を翻し扉を押して出て行く。その言葉はひどく冷たい言い草だった。 「え、ちょっと待ってよ、何で怒ってんの!」 「怒ってない。俺に隠したくなるくらい、良い子なんだろうなって思っただけ」 「別に隠したわけじゃないって!」 ぐるぐる。不安が、血液に溶けて全身を駆け巡っているみたいだ。 「まあ俺には関係ないし。そもそも、合コンなんて彼女見つけるために来るようなものだから、宮森の好きにすればいいよ」 「何だよ、それ……」 俺はこの時初めて、本当に村瀬のことが分からなくなっていた。 一緒に過ごした8年間なんて、たった一瞬で瓦解していく程度の脆い繋がりで、口にしようと喉まで出かかった言葉はどれも薄っぺらくて、俺はただ歩いていく村瀬の背中を見ていることしか出来なかった。 つまるところ、俺は村瀬の気持ちなんて、きっと何一つ分かっていなかったのだ。
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