足りないのに一杯な胸の中が痛む

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このすぐ先の小さな踏切を越えたところにある団地に村瀬の家がある。踏切のこちら側に家がある俺は、学校帰り、いつもこの場所で村瀬と別れていた。 小学校の時から待ち合わせもこの踏切で。 雨の日も、雪の日も、遊ぶ時も、塾の時も。 ずっと俺の隣にいたのも、笑ってくれていたのも、村瀬だった。 それなのに。 どうしたら村瀬が笑ってくれるのか、今の俺には分からない。 「なに……じゃないよ……なんなんだよ、さっきの」 「だから、宮森には関係な」 「関係なくない! 真木さんのこと訊いて来たじゃん……俺がくっついてたのが嫌ならそう言えばいいだろ! 俺は別に真木さんのこと何とも思ってないし、彼女が欲しくて合コン行ったわけじゃないし! 最近ずっと村瀬変だし、言いたいことあるならハッキリ言えよ!」 捲し立てるように言った俺の顔を見て、なぜか村瀬は困ったように笑う。 「真木さんは関係ないから」 「関係ないなら、なんで……怒ってたわけ?」 はぁ、と。 暗がりで響く、村瀬の短いため息。 同時に鳴り出した踏切の警報音が、やたらと煩く感じた。 「ほんと……鈍いよ。宮森は」 遠くから唸るような電車の走行音が聴こえて。村瀬の表情が、近づいてくる電車のライトでより鮮明になる。 その顔は、今日昇降口で見たものと同じ。 まるで空っぽな音を聴いているような。 「どういう……意味」 温度の抜け落ちた声で、村瀬が呟いた。 「好きなんだ、宮森が」
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