足りないのに一杯な胸の中が痛む

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「え……?」 電車が真横を轟音で通過する。 風が吹き抜けて、俺と村瀬の髪を乱暴に揺らす。 はっきりと聴こえた言葉の意味を考えあぐねていた。 「だからさ……宮森と距離を置こうと思う。しばらく、一緒に行き帰りも、やめよう」 なんで、こんな事を言われてるのか分からない。 「な、なんで……? 俺も村瀬のこと、好きだよ?」 俺のことが好きなら、なんで距離を置く必要があるのだろうか。 「宮森の好きは、俺とは違うんだよ」 「何、言ってんの……?」 「宮森のは友達として、だろ。だけど……俺の好きは違う」 「違……う?」 小さく頷いて、伸びてきた手は、いつも通り俺の頭をわさわさと撫でた。 「こうして触ってたのも下心。いつも気にかけてたのも好きだから。俺は……恋愛感情で、宮森のことが好きなんだ」 そう告げた村瀬の唇は、苦しそうに噛み締められていた。 だけど俺は、村瀬が何を言っているのか理解出来なくて、音の出ない口をただあんぐりと開けた。 「ごめんな……いきなりこんな事言われて、気持ち悪いよな。ずっと騙してたのと、同じだもんな」 「ま……待ってよ村瀬……」 気持ち悪いとか、騙してたとか。 次々並べられる言葉が、頭の中でうまく咀嚼できない。 「別に、返事が欲しいとかじゃないんだ」 何か。 何か声をかけなければ。 何か。 答えになるものを、返さなければ。 そう頭では思っているのに、俺の心は真っ白なまま、動き方を忘れたみたいに停止していた。
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