足りないのに一杯な胸の中が痛む

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「言うつもりなんて無かったし、傍にいられれば良かった……けど。このままじゃ、駄目だよなぁ」 自嘲気味に笑う村瀬の手が、ゆっくり俺から離れていく。 まるで心も離れていくみたいに、村瀬の顔が辛そうに歪んでいく。 「気持ちがさ、上手く抑えらんないんだ、最近。ほんと……今日もごめん。これ以上迷惑かけないように、ちゃんと気持ちにけりつけるから。だから……それまで、距離置かせて」 距離置くって、なに? 「意味が……分かんないって」 もう今までみたいに、一緒にいられないってこと? 「宮森は、何もしなくていいよ。俺の気持ちの問題だから。明日から、俺のこと待たなくていいし」 もう俺たちは前みたいに戻れないってこと? 「じゃあな」 そう言って、歩いていく村瀬を引き止める言葉が見つからなくて。 伽藍堂になった心だけが、線路沿いの小道に取り残されたみたいだった。 「どうすればいいんだよぉ……」 その場に蹲るようにしゃがみ込んだ俺は、自分の膝に頭をこすりつけた。 再び電車の轟音が、無関心に俺の横を通過した。
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