足りないのに一杯な胸の中が痛む

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───── 「おーい、お前ら一体どうしちゃったの?」 昼休憩。購買で買ったチョコクロワッサンを初めて残してしまった。 机に突っ伏した俺の頭を、長月の指がツンツンつつく。 「村瀬とケンカしたんだとさー」 仁志がボールペンで俺の頭をブスブス突き刺す。 「っ、痛いってば!」 腹立ち紛れに上げた顔の前には、いつも仁志が飲んでる紙パックのバナナオレ。甘いものを口にすると、無性に悲しくなるから控えていたけど。 「や〜っと起きたか。アッキー好きだろ? やるよ、ほら、元気出せ」 「うん……」 同じバナナオレを飲む仁志をちらりと見てから、目の前の黄色いパックにストローを突き刺す。 その隣の席で頬杖をつく長月は、呆れたようにため息を吐き出す。 「さっさと仲直りしてこいよ。二人がギクシャクしてるのとか、こっちが調子狂うし」 「そうそう、気持ち悪ぃから」 「そんなこと言ったって……」 あれから一週間。 村瀬の言葉通り、待ち合わせの踏切にはあの日以降、一度も村瀬は来なかった。 久々に一人で登る坂道は、踏み込むペダルは軽くて楽なはずなのに、言い様の無い虚しさで胸が張り裂けそうだった。 いつも通りに戻れるなら、俺だってそうしたい。 だけど、もうきっと昔には戻れない。 その覚悟で、村瀬は俺に言ってくれたんだってことくらい、わかってる。 わかってるけど…… ──宮森は、何もしなくていいよ。 まるでその言葉は、最初から用意していたみたいに、村瀬の口からサラリと落ちて、それがなぜか悔しくて堪らなかった。 村瀬は俺の知らないところで、ずっといつかこうなると、分かっていたのだろうか。 気持ちにけりをつけて……その後は? 俺はどうすればいいわけ? このモヤモヤはどうしたら無くなる? 村瀬に一方的に好きだと言われて、なのに返事はいらない、とか。 俺はそんな簡単に、割り切れないよ……
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