足りないのに一杯な胸の中が痛む

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「……変なこと、訊いていい?」 漠然と。疑問が湧いては消えていく。 何度も、何度も。 「何?」 「何だよ」 二人がまじまじと俺の顔を覗き込み、逃げるように視線を廊下へと移した。 「真面目に答えて欲しいんだけどさ……」 頭がこんがらがって、俺ひとりではその答えが見つけられない。 あまり寝ていないせいで、身体がだるい気がする。次の授業は英語だったっけ。 なんで村瀬は同じクラスじゃないんだろう。 机の上に顎を乗せて、吐き出した息は湿っぽい。 「恋愛感情の……好きって、何?」 大真面目な俺の質問に、案の定、二人は机を叩いて盛大に吹き出した。 「マジかっ!」 「ひー、腹痛ぇー!!」 「笑うな! 俺は真面目に訊いてんの!!」 そりゃ笑われるだろうとは思ったけど、そこまで笑わなくてもいいじゃん。 長月なんか涙目だし、仁志に至ってはもはや馬鹿にしてるとしか思えない変な顔だし。 「もーいいよ……二人に訊いた俺が馬鹿だった」 不貞腐れた俺に気づいた長月がごほん、と咳をひとつした。 「ごめんごめん。いきなり何かと思えば、まさかの内容だったから」 目尻に滲んだ涙を拭いながら、長月が落ち着いた声で言った。 「アッキー、気になる子でもいんの?」 仁志はニヤニヤしながら、揶揄うように俺の腕をつついてくる。 「いや、そういうわけじゃ、なくて……ただ……」 ただ。 村瀬の云った“好き”の意味が知りたい。   友達だと一緒にいられて、そうじゃないと一緒にいられない、その明確な理由が欲しかった。 でなければ、俺はいつまで経ってもこの意味不明なモヤモヤに囚われて、毎日毎日、村瀬のことを考えては苦しくなって。 まるで出口の無い迷路を、永遠歩かされてる気分だ。
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