足りないのに一杯な胸の中が痛む

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そう自覚した途端、肌に触れる空気がこそばゆくて、思わずしゃがみ込んだ。 顔がとんでもなく熱い。 でも、栓が抜けたように、身体のだるさが引いていく。 ずっとわけのわからなかったモヤモヤも、不安の理由も、これでやっと掴めた。 「俺……村瀬のことが……好きなんだ」 口に出すと、気恥ずかしさが鮮明になり、首元からぶわりと熱が上がってくる。 俺は村瀬が好き。 村瀬も俺が好き。 つまり。 イコール……両思い!? 「うぉおっ……なんかお腹痛いぃ〜。俺たち両思いじゃんかぁ」 廊下のど真ん中で、ひとりニヤける自分はさぞかし気持ち悪いことだろう。 だけど、嬉しさが止まんない。 両思い。 そのワードがこんなに心強いなんて。 距離を置く必要なんて無くなる。 ずっと一緒にいられる。 そう思うだけで、頬がだらしなく緩む。 「あれー、宮森どーした? 腹ピーピー?」 「迷子かあ?」 せっかくの幸福気分を邪魔するかのように、通りすがる同級生が、用もないのにいちいち絡んでくる。 「んなわけないだろ! 取り込み中だから放っておいて!」 シッシッと追い払った廊下の先に、一瞬、見覚えのある影がC組に入っていく。 視界の端にほんの数秒。 だけど、見間違えるはずなんてない。 間違いなく、村瀬だ。  胸の奥がほのかに震える。 昼休憩の喧騒に包まれた廊下が暖かく感じる。   俺も───ちゃんと伝えないと。 村瀬が云ってくれたように。 俺も、村瀬のことが好きなんだって、ちゃんと言いたい。
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