足りないのに一杯な胸の中が痛む

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意を決してゆっくり立ち上がり、視線の先に捉えた2年C組に向かって足を踏み出す。 空気の上を歩くように、足が軽い。 もっと、早く気づけば良かったな。 そうすれば、村瀬にあんな苦しそうな顔をさせずに済んだのに。 「あ、あのさ、村瀬いる?」 C組の入り口脇にいた女子二人に声をかける。 一人は中学の時に同じクラスだった坂元さん。もう一人の知らない子が、教室の奥に向かって叫ぶ。「村瀬くーん、呼ばれてるよー」 窓際で男子数人と話していた村瀬が、一瞬驚いた顔をしたものの、いつもの笑顔で俺に向かって手をあげた。 だけど俺は、どんな顔をすればいいのか分からず、にやけそうな口元を引き締めて、努めて平静な顔で手を振った。 「宮森と村瀬って、ほんと昔から仲良いよね」 坂元さんが歩いてくる村瀬と俺を交互に見て、懐かしそうに目を細める。 「まあね」 だてに両思いじゃありませんから。 そう言ってしまいたいのを、すんでのところで飲み込む。 「じゃあ、こうなることも宮森は知ってたんだ〜。結構村瀬ファンは衝撃受けてたのに」 意味深に腕をつつかれ、首を傾げる。 「こうなる?」 「え、知ってるでしょ? ほら──」 なんであの時、俺は振り返らなかったんだろう。 なんでもっと早く、村瀬の気持ちに気づかなかったんだろう。 「村瀬と稲見さん、付き合ったじゃない」 「は?」
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