触れたくても触れられないのは

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「え……」 目の前の宮森は、開口一番そう言ってから、まるで逃げる様に踵を返した。俯きがちだったせいで、どんな表情をしていたのかも分からない。 「ちょっ、宮森!?」 何のことかさっぱりな俺は、咄嗟に伸ばした手で宮森の腕を掴む。 一週間ぶりに触れた宮森の腕は、相変わらず頼りないほど細くて、そう意識してしまえば最後、あっという間に陳腐な決意は揺らぐのだから笑うしかない。 「……っ……だよ」 腕を掴まれた宮森が、足を止め何かを呟いた。だけど声が掠れていて聴き取れない。 「え、なに?」 もっと近づこうと、掴んだ腕を引き寄せると、握っていた手が乱暴に振り払われた。 「人の気持ちを何だと思ってるんだよっ!!」 廊下に響いたその大声は、恐らく宮森を知っている人間なら、誰もが驚くほどの光景で。 少なくともこんな風に怒りを表面に出すなんてこと、この8年一度も無かった。 それくらい温厚で穏やかで、だから目の前の宮森の姿に、ひどく動揺していた。 「何で……怒って」 頭の中が真っ白で、何で宮森が怒っているのか、そもそも何で俺のクラスに来たのかすら、想像しようにも頭が上手く回らない。 宮森の様子からして、原因が俺にあるのは火を見るよりも明らかだ。とにかく引き止めて、理由を訊かないと。 一度払い退けられた手を、もう一度伸ばそうとした時、   「触るなっ! 二度と俺に話しかけるな!」 明白な拒絶に、俺は絶句した。 背を向けて歩いていく宮森が、もう二度と振り向いてくれない気がした。もう二度と俺の名前を呼んでくれない気がした。 こうなることを一番恐れていたのに。 どうして、あの日、あんな馬鹿なことを言ってしまったのだろうか。 好きだなんて、言わなければ良かった。
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