触れたくても触れられないのは

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「どうしちゃったのよ、宮森……」 入り口脇に立っていた坂元がぽつりと呟く。予鈴のチャイムが鳴り、張り詰めていた空気が動き出す。 「俺に……何の用か、理由言ってた?」 「ううん、特に。でも凄く嬉しそうに見えたのに村瀬が来た瞬間、いきなり怒ったから驚いちゃったよ……あんな風に宮森が怒るなんて初めて見た」 「俺も」と頷けなかったのは、その怒りの矛先が俺に向けられていても、理由すら分からないせいか。 間も無く終わる昼休憩を前に、クラスメイトが続々と教室に戻ってくる。笑いさざめく声が耳障りに感じる。 「あれかなぁ。ヤキモチ、とか?」 坂元の言った言葉が上手く頭に入らない。 ただぼんやりと、自分の席に戻っていくクラスメイトを目で追いながら、オウム返しのように同じ言葉を返す。 「ヤキモチ……」 宮森と同じクラスだったら、たぶんこんなことにはならなかった。 きっと、まだちゃんと気持ちを隠せていた。 距離を置く必要も無かった。 この先もずっと……─── 「あんたたちって仲良いからさ、もしかして村瀬を取られてショック受けてたんじゃないの?」 俺を……取られて? 「ごめん、意味分かんないんだけど」 「だからほら、稲見さんのことだよ。村瀬、付き合うんでしょ?」 「は? それ、何の話だよ」 「またまたぁ、とぼけちゃって。先週だったかな、二人が好きだとか言い合ってて、良い雰囲気で話してたの聴いた子がいるんだから。しらばっくれても無駄だよ?」 「それ、誤解……」 「うそー!」 「マジで」 だって稲見が好きなのは、宮森だから。
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