触れたくても触れられないのは

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稲見が転校してきたあの日。 学校案内が一通り終わり、二人で昇降口に向かおうと階段を降りていた時だった。 「村瀬くんってさ、宮森くんのこと好きでしょ?」 いきなり隣を歩く稲見にそう言われて、冷や汗が吹き出した。 「はあ?」 「友達」として。その意味合いだとしても、いちいち心臓が反応してしまうのはどうしようも出来なくて。 繕うように「親友だしな」と、笑いながら稲見の言葉を軽く流すように同調した。 だけど。 「違うよ……そうじゃなくて。恋人になりたいって方の好き」 息が止まりそうだった。 宮森に対する行動や表情が、あの一瞬でバレたというのだろうか。自分では気付かないうちに、周囲に伝わるほど露骨になっていたのだろうか。 いや、そんなはずは無い。 もう何年も付き合ってきた感情だ。 隠すのも、取り繕うのにも慣れている。 「稲見さんって、そういう冗談言うんだな」 ましてや、出会ったばかりの彼女にバレるなんて考えられない。 「冗談で言ったつもりはないんだけどな。私としては、村瀬くんが最大の強敵(ライバル)だから」 「強、敵?」 柔らかい笑みを浮かべてはいても、稲見の瞳の奥には、どこか挑発的な鋭い色が滲んでいた。 「そう。小学校の時から、ずっとね」 「どういう、ことだよ」
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