触れたくても触れられないのは

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──── 宮森の怒った顔が忘れられない。 怒りの中に、どこか傷ついたような憂いを帯びた顔が思い起こされ、胸の奥がじくじくと痛む。 あんな顔をさせたかったわけじゃない。 だけど、どうすればこの気持ちを消すことが出来るのか分からない。 宮森との友情を壊したのは俺。 都合良く、何事も無かったように出来るわけがなかったんだ。 距離を置いたところで、消えるどころか、益々手がつけられなくなる程増幅したこの想いは、きっとまた宮森を傷つける。 だとしたら、このまま、徹底的に嫌われた方が良いのか……── 「おーい、─ ──っ」 稲見じゃなくても、いつか俺の知らない誰かと付き合うのだろうか。 俺のこの気持ちは、ちゃんと消えてくれるのだろうか。 「おーい! む、ら、せっ!!」 「うわっ」 肩を強く叩かれ、耳に不機嫌な大声が吹き込まれる。驚いて顔をあげると、同じクラスの篠原(しのはら)が仁王立ちで立っていた。 呼ばれたような気がしたのは、どうやら篠原だったらしい。 SHRが終わった教室内には未だ多数の生徒が残っていた。来月の修学旅行に向けて、班ごとで自由行動の話し合いをしているせいだろう。 「ごめん気づかなかった。篠原、なに?」 首を傾げる俺に、訝しい顔が向けられる。 「なに。じゃねーよ! 客! 廊下! めっちゃ不機嫌だぞ!」 普段は穏やかな篠原が、珍しく強い口調で告げ、クイッと親指を廊下に向けた。 ここからでは廊下に誰がいるのかは確認出来そうにない。 「え、誰?」 「A組のやつだって。いつも村瀬とつるんでるやつ」  ため息混じりにそう言われて、慌てて立ち上がった。 脈が早まる。まさか、宮森?
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