触れたくても触れられないのは

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緊張しながら席を立ち上がる。横に立っていた篠原が肩をぽんぽんと叩いてきた。 「ありゃ、相当ブチ切れてるぞ。俺まで当たられたじゃんか。村瀬、何やらかしたんだよ」 「いや……」 心当たりは十分にある。 けれど篠原の言葉がひっかかる。宮森が他の誰かに当たる、というのは考えにくい。 じゃあ客っていうのは、宮森じゃない? だとしたら……考えられるのは、あの二人のどちらかだ。 思案しながら入り口に向かって歩いていくと、扉から僅かに人影が見えた。 廊下の壁に寄りかかり、腕を組んで立つ長身に、一つに結ばれた明るい茶髪。読み通りだった後ろ姿にため息を吐く。 「わるい……」 開いた扉から声をかけると、廊下に向けられていた視線が鋭くこちらに向けられる。浮かばない言い訳の代わりに、手の平を握りしめた。 唯一、俺の気持ちを知っていて、それでもなお変わりなく付き合ってくれている友達なのに。 何度も宮森のことを相談して、懲りずに協力してくれたのに。 こんなどうしようもないやり方しか出来なかった俺に、心底呆れただろうに。 なんでそんな顔するかな…… 「拗らせてんじゃねえよ。馬鹿かお前は」
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