触れたくても触れられないのは

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「宮森は、俺のことを友達としてしか見てない……それでも俺は、そばにいられればそれで良かった。今の関係を壊すなんて、そっちの方が馬鹿だ。だから……その関係を壊してしまった以上、もう手遅れなんだよ」 想いを告げてしまったのだから、もう遅い。 友達でいられるかすら、危ういというのに。 「お前、何意味不明なこと言ってんだよ」  仁志の苛立ちを含んだ言葉の意味がよくわからない。 「意味不明って?」 「今の関係を壊さなきゃ、先に進めるわけないだろ」 「何言って……」 もうとっくに消えかけた、小さな心の熾火(おきび)がパチと音を立てた。 「ずっと友達のままそばにいて、いつか宮森に恋人が出来ても、村瀬は平気なわけ? 結局苦しくなって逃げるならさ、今ここでしっかりぶつかっておくべきなんじゃねぇの? 少なくとも、告った時点でもう後戻りは出来ないんだから」 仁志の言いたいことが、なんとなく。 けれど確実に、胸の奥に広がっていく。 「他人事だと思って……言いたい放題だな」 はは、と自嘲気味の笑いがこぼれた。 けれど、喉の奥に詰まった後悔が僅かに薄れた気がする。 逃げるな。 前へ進め。 そう言いたいんだろ? だから嫌なんだ。バンドマンは。 暑苦しくて、こちらの気持ちなんてお構い無しに背中を押してくる。 「そりゃ友達だからな。言いたいことは言わせてもらう。ついでに言えば、鈍いのは宮森だけじゃない」 「は? それどう言う」 「やべ、部活始まってんじゃん」と仁志がわざとらしく、俺の声を遮るように声を上げて、そそくさと歩き出す。
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