触れたくても触れられないのは

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「ちょっと待てっ!」 歩き出した仁志の腕を慌てて掴む。 根拠のない期待が先程の一言で膨らんでいく。 鈍いのは、俺もってこと……?  振り返った仁志の顔は、勝ち誇ったような憎々しい笑顔。 「な〜んだよ。手遅れなんじゃねえの?」 ひひ、と仁志の口角がいやらしく上がる。 「手遅れな上に、当たって砕けさせようとしてるのは誰だよ!」 「え、俺?」 「そうだ!」 「はは、村瀬が砕け散るところなら、是非とも間近で見物したいとこだけどさぁ。ま、俺は〝優しい仁志先輩〟って後輩からも有名だから、良いこと教えてやる。端的に言うとだな、砕けるとは限らないってことだよ」 ほんとに。どうして俺の周りの奴は、こうも世話焼きなのか。 「冗談……」 「宮森も多分、村瀬のことが好きだな。しかもあれは相当だ。悪いけど俺も長月もとっくに気付いてる。お互い同じ気持ちなのに気付いてないのは当人だけっつーな。ほんと笑えるよ、二人揃ってお子ちゃまかよ」 ほんとに。どうして俺はこうも馬鹿なのか。 「じゃあ、宮森が俺に会いに来た理由って……」 ──すごく嬉しそうに見えたのに 思い起こした坂元の言葉に、曖昧だった予感が確信へと変わっていく。 宮森は、あのどうしようもない俺の告白の答えを、返そうとしてくれてたんじゃないだろうか。 もし、仁志の言うことが本当なら。 これが単に自惚れじゃないなら。 「もう一度、宮森と話してくる」 ちゃんと、謝らないと。 あんな酷い告白してごめんって。 幻滅させてごめんって。 それから。 もう一度、逃げずにもう一度、ちゃんと伝えたい。 俺は宮森のことが……───
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