触れたくても触れられないのは

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「それでだな、ここからが本題なんだけど」 熱を冷ますような、仁志の温度の低い声に驚いて顔を上げる。 「本、題?」 仁志の表情からして、どう見ても良い話題とは思えない。 動揺を抑えつけるように、息をごくりと飲む。 「実はアッキーがさ、この前村瀬が学校案内してた可愛い転校生に声かけられててな、確か……稲見さんだっけ? とにかく気になって俺も聴き耳立ててたわけよ。そしたら稲見さんとアッキーが、どうも放課後デート行くんだとさ」 「デート!?」 なんで宮森と稲見がデートなんて…… 「めちゃくちゃ可愛い子だったし、アッキー(なび)いたらヤバいんでないの?」 冷や汗が零れ落ちた。 稲見が動いたのだ。 だけど、俺たちが付き合ってないと分かれば、稲見に靡くなんてことないよな? そもそも、宮森が稲見とデートに行くこと自体が腑に落ちない。 一体何のために? 「二人が出てったのって、いつ……?」 「俺がここに来る直前。SHRが終わって少ししてからだ」 いや。 有り得ないわけじゃない。 もし、俺のことに幻滅してたら? 本当はそれほど俺を好きじゃなかったら? 小学校で隣の席にいた子が、稲見だと気づいていたら? 可能性なんていくらでもある。 そして、自分に与えられた僅かな可能性を潰そうとしてしまった俺が出来ることなんて。 たかだか知れてる。 「二人がどこ行ったか教えて!」
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