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「宮森〜、呼ばれてるよー」
英語の授業が終わった直後のことだった。
後ろの席の森本くんが、机に突っ伏していた俺の背中を叩いた。
俺はというと、ロミオとジュリエットの悲惨な結末だけが頭の中で旋回していて、押し進むべきか、引くべきかに振り回されて衰弱しきっていた。
「俺……誰とも話したく無い……」
「めちゃくちゃ可愛い女子なのに〜?」
言われて、慌てて顔を上げた。
もちろん可愛いからじゃない。何となく、そのワードが彼女を指している気がした。
言うなれば、恋敵の勘ってやつだろうか。
教室後方の扉を指差した森本くんが、穏やかな顔で微笑んでいる。その指が向けられた先にいたのは、やっぱり稲見さんだった。
「ごめんね」
扉まで歩いていくと、開口一番、稲見さんが謝ってきて、「村瀬くんを貰っちゃってごめんね」とすら聴こえてくる。
「な、なにが……ごめんなの?」
だめだ。心臓が潰れてしまう。
いや、どうせ駄目になるなら、ここで心臓が潰れて死んだ方がマシだろうか。村瀬の前で惨めな姿を晒さずに、そっと打ちのめされて失恋した方が。
「昼休憩のとき、村瀬くんと喧嘩してたってクラスの子から聴いて……」
「だから?」
「もしかして、私と村瀬くんの、噂のせいなんじゃないかなって……」
稲見さんの綺麗な顔が切なそうに歪んでいく。それを見るだけで辛い。
きっと彼女はすごく優しいんだと、雰囲気や表情でわかる。それなのに俺は、もうすぐ突きつけられるであろう現実を受け止める覚悟が出来ない。
だから、言葉や態度がささくれ立つ。
情けないくらい、男としてかっこ悪い。
村瀬のことよろしくね。
村瀬って口数少ないし、たまに何考えてるのか分かんないけど、めちゃくちゃ優しい奴だから。
二人のこと応援してるよ。
そう、心の中で練習してみても、泣きたくなって、結局途中でやめた。
「違うよ。二人とは……関係無いから」
そして今出来る精一杯なんて、こんな下手くそな笑顔と、強がりだけ。
「ねぇ、宮森くんは駅前のパンケーキ好き?」
唐突に、稲見さんに全く予想だにしなかった質問をされて。
「え……好きだけど」
何も考えずに、答えを返した俺に稲見さんが微笑んだ。その笑顔は、どこか見覚えがあった。薄ら見える口元のホクロも、キュッと肩を窄めて笑う癖も。確か、小学校の時……
「じゃあ、放課後私に付き合って欲しいんだ。パンケーキどっちが沢山食べれるか、大食いデートしようよ」
その言葉に、稲見さんの腕を掴んだ。
「も、もしかして稲見さんって!」
まさか、隣の席だった大食い笹川さん⁈
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