ハローグッバイ

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行列がまた僅かに動きだし、だけど俺は動揺と妙な緊張で足が上手く動かせない。顔が熱くて、稲見さんを目で追うのが精一杯だった。 「宮森くん、どうしたの?」  先に進んだ稲見さんが振り返る。 その姿はポカリスエットのCMに出てるアイドルよりも、もっとずっと可愛くて。 「今さ……げ、幻聴が……聴こえた気がして……」 「幻聴?」 「俺に……好きになって欲しいって」 「言ったよ。誤解されたままだと嫌だからはっきり言うけど、私が好きなのは村瀬くんじゃなくて、宮森くんだから」 ジュリエットが、どうしてロミオに名前を捨ててなんて、無謀なことを言ったのか。 「あの、俺……好きな人がいて……」 もしかしたらあの時、ジュリエットはもう覚悟していたのかもしれない。 「宮森くんの好きな人って……村瀬くん?」 この結末には悲劇しか残されていなくて、だからロミオがどんな選択をするのか、試したのかもしれない。 虚無しか残らない未来への道を進むか。 愛という名の絶望に沈むか。 「なんで、そのこと……」 呼吸が上手く出来ていない気がする。 「二人を見てたら分かるよ。小学校の時からずっとお互いを凄く大切にし合ってるもの。友情以上の気持ちがあるんじゃないかなって、転校してきた日に二人を見てなんとなく思ったんだ。だけど……村瀬くんも宮森くんも、友達のままじゃ駄目なの?」 「どういう、意味?」 「同性で付き合うって……きっと私たちが想像してるより大変だと思う。だから友達としてそばにいるって選択肢もありだと私は思うんだ。恋人は別れたらそれっきりだけど、友達ならずっとそばにいられるでしょ?」 「それって」 「……私じゃ、村瀬くんの代わりにはなれない?」
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