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苦笑する俺の顔を見て、仁志が眉をしかめた。
「おいおいおい、秋くん。今日の舞台はカラオケだぜ? 俺を誰だと思ってんの?」
「んーと、」
四六時中、ギターと女子のことで脳味噌パンパンのエロン毛バンドマン?
「俺のこの左手を見たまえ。指先が硬いだろう? これはどんなに速いフレーズでも正確にコードを押さえられる努力の証。そして、どんなに不感症な女の子でも一発で」
「わあー、うわあぁあー! もう、そういう下ネタいいって!」
「あ? そんなだからいつまでも“きゃわいい宮森くん”止まりなんじゃねぇか!」
それは関係ないってば!
そうつっ込もうとした俺の頬を、仁志がむぎゅっと片手で押し潰した。
「むぐぐっ」
すぐに下ネタをぶっこんじゃう仁志は、バンドやってるだけあって、外見はまあ、目立つ。顔立ちだって良い。
髪は括らないと風紀委員に怒られるらしく、顎ラインまで伸びた茶髪を一つに束ねているのだけど、これがまた女子からウケが良い。
歌もギターも上手いし、喋らなければモテるのは間違いないのに。喋らなければ。
「やーめろ」
声と同時に、ぬっと肩越しに筋張った手が伸びる。
俺の頬を掴んでいた仁志の腕が捕まり、その手の形だけで、誰なのかすぐに分かる。
「げ、」
「あっ、村瀬?」
腕を辿って振り向くと、予想通り村瀬が涼しい顔で立っていた。
「次期部長の仁志さん、こんなとこで宮森と遊ぶ暇あったら、先に部室の鍵開けてやれよ。後輩くんが部室前の段ボール、ドラム代わりにして叩きはじめてたけど」
「はぁ!? 1年の光吉かよ……ったく。どうしてこう、バカが多いかなぁ」
とかなんとか言いつつ、仁志はこう見えて面倒見がすごく良い。だから次期部長をすでに現部長から託されているとか。
「んじゃ、俺は先に部室寄ってから行くし、悪いけど長月が帰ってきたらラインしてるって伝えといて。村瀬はアッキーと一緒に来ねえの?」
「まあ……そうしたいとこだけど」
「?」
村瀬がちらりと視線を向けた先で、初めて見かける女子がペコリとお辞儀した。
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