左手はずっと君をさがしてる

5/10

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
苦笑する俺の顔を見て、仁志が眉をしかめた。 「おいおいおい、秋くん。今日の舞台はカラオケだぜ? 俺を誰だと思ってんの?」 「んーと、」 四六時中、ギターと女子のことで脳味噌パンパンのエロン毛バンドマン? 「俺のこの左手を見たまえ。指先が硬いだろう? これはどんなに速いフレーズでも正確にコードを押さえられる努力の証。そして、どんなに不感症な女の子でも一発で」 「わあー、うわあぁあー! もう、そういう下ネタいいって!」 「あ? そんなだからいつまでも“きゃわいい宮森くん”止まりなんじゃねぇか!」 それは関係ないってば! そうつっ込もうとした俺の頬を、仁志がむぎゅっと片手で押し潰した。 「むぐぐっ」 すぐに下ネタをぶっこんじゃう仁志は、バンドやってるだけあって、外見はまあ、目立つ。顔立ちだって良い。 髪は括らないと風紀委員に怒られるらしく、顎ラインまで伸びた茶髪を一つに束ねているのだけど、これがまた女子からウケが良い。 歌もギターも上手いし、喋らなければモテるのは間違いないのに。喋らなければ。 「やーめろ」 声と同時に、ぬっと肩越しに筋張った手が伸びる。 俺の頬を掴んでいた仁志の腕が捕まり、その手の形だけで、誰なのかすぐに分かる。 「げ、」 「あっ、村瀬?」 腕を辿って振り向くと、予想通り村瀬が涼しい顔で立っていた。 「次期部長の仁志さん、こんなとこで宮森と遊ぶ暇あったら、先に部室の鍵開けてやれよ。後輩くんが部室前の段ボール、ドラム代わりにして叩きはじめてたけど」  「はぁ!? 1年の光吉(みつよし)かよ……ったく。どうしてこう、バカが多いかなぁ」 とかなんとか言いつつ、仁志はこう見えて面倒見がすごく良い。だから次期部長をすでに現部長から託されているとか。 「んじゃ、俺は先に部室寄ってから行くし、悪いけど長月が帰ってきたらラインしてるって伝えといて。村瀬はアッキーと一緒に来ねえの?」 「まあ……そうしたいとこだけど」 「?」 村瀬がちらりと視線を向けた先で、初めて見かける女子がペコリとお辞儀した。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加