ハローグッバイ

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最寄りの駅まで稲見さんを送りとどけた頃には、すっかり陽が落ちて辺りは暗くなっていた。 「うぁ〜食べすぎた。お腹重た……」 さすがにパンケーキ6枚は食べすぎだ。 ぱんぱんのお腹を摩りながら、自転車を押して商店街を通り抜ける。目の前に現れた少し大きめの通りの先には、先日合コンがあったカラオケ店がある。 行き交う車のヘッドライトをぼんやり眺めながら、押していた自転車に跨り逡巡していた。 今から村瀬の家に行こうか。 それとも電話をかけようか。 本当なら、このまま住宅街に向かう路地に入ればすぐ俺の家だけど、話すならやっぱり今日しかない。 村瀬の家に行くなら、踏切に向かわなければならないけど。先に電話をしておいた方がいいだろうか。 「はぁ……緊張する」 ちらちら星が瞬く夜の空に息を吐きだしながら、スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込み、固まった。 「あれ……ス、スマホっ、ない」 慌てて上着とパンツのポケットを漁るも見当たらず、背負っていたリュックを下ろす。 まさかさっきの店に忘れた? いや、そもそも店でスマホを出した覚えが無い。それどころか、今日一回も触ってないし …… 「あっ!」 教科書の下。リュック底で光るスマホが見えて手を伸ばす。指先が触れた瞬間、スマホが着信のバイブレーションで震えた。 「はいはーい」 画面も見ず耳に当てたスマホからは、聴き慣れた低い声。だけどいつもの声音より、どんよりと暗く沈んだものだった。 『宮森……いまどこ?』 「なんで、元気無いの……村瀬」 緊張で、声が掠れる。 『どこ』 「今日、あんな言い方して……ほんとごめん」 変な焦りで、会話が噛み合わない。 『今どこ。そこ行くから』 村瀬がため息混じりに呟いた背後で、遮断機の警報音が聞こえた。 とっくに家に帰っているはずなのに。学校が終わって、ゆうに二時間は経過しているのに。 確かに今、村瀬の背後で音が聴こえている。 いつからそこにいたのか、想像しただけで自転車のペダルを力一杯踏み込んでいた。 「い、いつからそこにいたんだよ!」 何で、何で村瀬は、こんなに馬鹿なんだろう。
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