ハローグッバイ

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『お前電話繋がらないし、どこ行ったか仁志も知らないって言うし』 どこか呆れたような口調は、少し不機嫌な証拠だ。 「そ、そんなん……俺ん家に来たらいいじゃん。知ってるだろ」 『知ってるけど、嫌かなって』 「嫌なわけないじゃん」 ペダルが重い。 小さな横断歩道の信号に捕まり、それすらもどかしい。 赤信号の先に見える線路の上を電車が通過する。少し遅れて、電話の向こう側でも同じ音が聴こえた。 「あと少しで着くから……村瀬はそこで待ってて。話したいことあるし」 ため息が零れる。 このまま言ってしまおうか。 村瀬は、俺とどうなりたいのだろうか。 『今日さ……稲見さんとデートしたってほんと?』 受話口からぽつりと、覇気の無い村瀬の声。 「駅前のパンケーキ一緒に食べただけ」 『それ、デートじゃん』 こんな刺々しい声、聴いたことない。 「あのさ、」 それって嫉妬? 稲見さんとのこと、気にしてくれてる? 「俺たちって、何なの?」 横断歩道が青に変わり、ペダルを踏み込む。 村瀬は無言のままで、ただ過ぎ去った電車の残響みたいに、自分の心臓が慌ただしく拍動していた。 『どういう意味?』 ゆっくり左手のブレーキを握る。 音も無く自転車が停止した道の先に、いつもの踏切が見える。その脇のガードレールにもたれて立つ人影がひとり。 「村瀬はさ……友達のままがいいの? 俺に好きだって言ってくれたのは、無かったことになるわけ?」 受話口から声は聴こえない。 もやもやが、また胸いっぱいに広がる。 自転車を歩道脇に停め、耳に当てたスマホをポケットに押し込む。肺に酸素を目一杯吸い込んだ。 「黙ってないで何とか言え!!」 怖いのは俺だって一緒なんだから。
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