ハローグッバイ

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「──……ぃ」 腕をトントンと軽く叩かれて、聴き覚えのある柔らかな声に、頭をゆっくり持ち上げる。 少し気怠い微睡みから意識が抜け出す。 どれだけ待ってたと思うんだよ。 瞼を開けて、そう言ってやろうと思ったのに。 「ごめん。待った?」 眼前に迫る宮森の顔は、もう何年も見てきた見慣れた造形だというのに。心臓が止まりそうなほど可愛い。 「いや……ぜんぜん……」 王道の古臭い恋愛ドラマみたいな台詞が、自分の口から出て、思わずふっと笑いが零れた。 「なんで笑ってるの?」 俺と向かい合う形で、前の席に座る宮森が仔犬みたいな丸い目を見開いた。 「別に、」 何でもない。 これまでなら、そう言っていたけど。 もう隠す必要も無いのか。 「……可愛いなって思っただけ」 「っ!」 わかりやすい程、顔に火でも点いた様に一瞬で赤らむ宮森に吹き出す。 「ははっ、小学生か!」 「……うっさい。俺は村瀬と違って、こーゆーの慣れてないの」 「俺だって慣れてるわけじゃない」 「嘘だぁー。村瀬モテるじゃん……俺、村瀬が告白されてるの、何回も見たことあるし……」 そう口にした宮森の言葉尻が、どこか寂しそうで。 「宮森にモテないと、俺は嬉しくないよ」 おもむろに手を伸ばす。 だけどまだ、躊躇いが指先に残っている。 触れていいのか。 どこまでなら宮森が大丈夫なのか。 やっぱり無理だと思われたら、俺はどうすればいいのか。 そう心では思いながらも、一度解放した気持ちは、簡単には止められるわけも無く。 指の腹でその赤らむ頬を撫でると、宮森が息を止めたのが分かった。 「なんで緊張してんの?」
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