69人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
血色の良い頬が綻び、二重の目尻が柔らかく下がる。明るい涅色のロングヘアは緩いウエーブがかかっていて、凛とした笑顔はポカリスエットのCMで見かけるアイドルに似ていた。
「こんにちは、もしかして宮森くん?」
何で俺の名前を?
「こ、こんにちは。え、と……どこのクラスだっけ?」
記憶を引っ張りだしても、やっぱり見覚えがない。
「今日転校してきた俺のクラスの子。先生に頼まれて、今から校内ツアー」
村瀬の言葉に、ポカリの女の子が軽く会釈する。
「稲見彩です。さっきまで村瀬くんと宮森くんの話してて、もしかしたらそうかなって思ったんだ」
「え、どんな話か気になるんだけど」
視線を送った先で、なぜか村瀬が気まずそうに目を逸らした。
「別に……大した話じゃないから」
「確か、宮森くんとは長い付き合いだって話だよね?」
一瞬、何かすごくモヤッとして。
だけど、その理由が分からない。
「村瀬とは、小学校の時からずっと一緒でさ……」
「そうなんだ。私、親が転勤族だから、そういう長い付き合いの友達がいなくて羨ましいな」
そう話す稲見さんの笑顔は、ポカリのアイドルよりもずっと自然で可愛らしさもあって、いくらなんでも忘れる人なんていないと思った。
「まあ、俺は毎朝寝坊ギリギリの村瀬を、自転車の後ろに乗せてるだけだけどね」
「俺は赤点ギリギリの宮森の数学を見てやってるだけだけどな」
「っ、赤点ギリギリじゃないって!」
ムッと村瀬を睨みつけると、稲見さんがふふっと笑い声をこぼした。
「二人、仲良いんだね」
「まぁ、長い付き合いだしね。喧嘩はしたことないかな。あ、そもそも俺、誰かと喧嘩とかしたことが無いかも」
「なんかわかる。宮森くん温厚そうだもんね。顔も可愛いし」
「それ褒めてないって」
「あはは、ごめんね、つい」
春の穏やかな陽射しみたいに、稲見さんの笑顔も笑い声も柔らかくて、コンプレックスの女顔のことを言われても、実は嫌じゃなかった。
「宮森は温厚ってよりも、天然だけどな」
「んん?」
「へー、宮森くん、天然なの?」
「もしくは、鈍感」
「ちょっ、なんかそれ、めちゃくちゃ悪意を感じるんだけど!」
こうして飄々と。村瀬が俺のことをあからさまに揶揄うようになったのは、ここ最近。
たぶんクラスが別々になって、そのすこし後。
仁志ならわかるけど、村瀬はいつも優しくて、こんな風に誰かを揶揄うとか見たことがなかったから。
だから、また、モヤッとする。
胸の中に薄暗い霧がかかったみたいに。
俺、なんか村瀬が嫌がること、しちゃったのかなって、不安になる。
最初のコメントを投稿しよう!