左手はずっと君をさがしてる

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血色の良い頬が綻び、二重の目尻が柔らかく下がる。明るい涅色のロングヘアは緩いウエーブがかかっていて、凛とした笑顔はポカリスエットのCMで見かけるアイドルに似ていた。 「こんにちは、もしかして宮森くん?」 何で俺の名前を? 「こ、こんにちは。え、と……どこのクラスだっけ?」 記憶を引っ張りだしても、やっぱり見覚えがない。 「今日転校してきた俺のクラスの子。先生に頼まれて、今から校内ツアー」 村瀬の言葉に、ポカリの女の子が軽く会釈する。 「稲見彩(いなみ あや)です。さっきまで村瀬くんと宮森くんの話してて、もしかしたらそうかなって思ったんだ」 「え、どんな話か気になるんだけど」 視線を送った先で、なぜか村瀬が気まずそうに目を逸らした。 「別に……大した話じゃないから」 「確か、宮森くんとは長い付き合いだって話だよね?」 一瞬、何かすごくモヤッとして。 だけど、その理由が分からない。 「村瀬とは、小学校の時からずっと一緒でさ……」 「そうなんだ。私、親が転勤族だから、そういう長い付き合いの友達がいなくて羨ましいな」 そう話す稲見さんの笑顔は、ポカリのアイドルよりもずっと自然で可愛らしさもあって、いくらなんでも忘れる人なんていないと思った。 「まあ、俺は毎朝寝坊ギリギリの村瀬を、自転車の後ろに乗せてるだけだけどね」 「俺は赤点ギリギリの宮森の数学を見てやってるだけだけどな」 「っ、赤点ギリギリじゃないって!」 ムッと村瀬を睨みつけると、稲見さんがふふっと笑い声をこぼした。 「二人、仲良いんだね」 「まぁ、長い付き合いだしね。喧嘩はしたことないかな。あ、そもそも俺、誰かと喧嘩とかしたことが無いかも」 「なんかわかる。宮森くん温厚そうだもんね。顔も可愛いし」 「それ褒めてないって」 「あはは、ごめんね、つい」 春の穏やかな陽射しみたいに、稲見さんの笑顔も笑い声も柔らかくて、コンプレックスの女顔のことを言われても、実は嫌じゃなかった。 「宮森は温厚ってよりも、天然だけどな」 「んん?」 「へー、宮森くん、天然なの?」 「もしくは、鈍感」 「ちょっ、なんかそれ、めちゃくちゃ悪意を感じるんだけど!」 こうして飄々と。村瀬が俺のことをあからさまに揶揄うようになったのは、ここ最近。 たぶんクラスが別々になって、そのすこし後。 仁志ならわかるけど、村瀬はいつも優しくて、こんな風に誰かを揶揄うとか見たことがなかったから。 だから、また、モヤッとする。 胸の中に薄暗い霧がかかったみたいに。 俺、なんか村瀬が嫌がること、しちゃったのかなって、不安になる。
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